大好きな騎士団長様が見ているのは、婚約者の私ではなく姉のようです。

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「他国の王族との人脈を得ることは良いことだと思います。ですがあまり一緒に居ると変に勘ぐられますので、気をつけることを推奨します」 「……自分は、婚約者でもない異性と抱擁までするのに?」  ポツリと呟いたけれど、運良く強い風が吹き荒れたおかげでアシュトン様の耳には届いていないだろう。  届いたとしても彼はきっと困った顔をするだけだ。もう私の天秤は彼を諦めることに傾いていた。  でも、もしかしたら。  ほんのちょっとでも、なんて期待もしている。  一週間後に、私は十八歳になる。結婚もできるし、成人として私の制限も変わってくるのだ。その一つが魔法塔への移住権。  有能な魔法使いに与えられた特権であり、世界の中心である空中都市、地底世界樹都市の二つの都市いずれかに居住権と、魔法使いとして最高ランクの称号と仕事を得る。功績に見合った報酬を手にできるし、自分が考案した魔法技術や全ての権限が術者個人の財産となるのだ。  まさに私にとって夢のような場所。  婚約破棄あるいは解消になるのなら、私はその都市に行く。この国の王であっても魔法塔に移る権限は個々人が持っているので、許可なども必要ないことが心から嬉しい。  最大の難関はあっさりパスしたので残る問題、というよりも迷っているのはアシュトン様とのことだけ。  アシュトン様は私を侯爵夫人として、迎えるつもりは──あるのかもしれない。いつものように私を矢面に立たせて、本当に好きな人を守ろうと考えても可笑しくない。「好きになった人の役に立ちたい」なんて三年前の自分を殴ってでも婚約を止めれば良かった。  そうすれば積み重なる想いに、押し潰されなくてすんだのに。  ***  アシュトン様が案内してくれたのは、宮廷の奧にあるバラ庭園のガゼボだった。私たちはよくこの場所でお茶をして会うことが多かった。  この場所だと姉の居住区域が見える位置だと気付いたのは、ずっと後だけれど。私はバラよりも藤の花のほうが好きで、アシュトン様に話したことがあった。淡い青紫色の花がカーテンのように垂れ下がっているのがとても美しくて、季節になるとよく一人で眺めていたわ。
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