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アシュトン様も「一緒に見よう」と言ってくれたけれど、それを話したのが四年前。あれから一度だって一緒に見たことはないし、話題にも上がってこない。だからきっとその場凌ぎの言葉だったのに、馬鹿みたいに信じていた。本当にもっと早く気づけば、傷ついたけれど深々と傷つくことはなかったわ。
私とアシュトン様は向き合う形で座った。本来ならお茶を用意する侍女たちがいるのだけれど、私にはそんな気の利いた侍女たちはいない。本当にこの国にとって末姫なんて、名前しか価値のない存在なのでしょうね。
もうどうでもいいけれど。
どう話を切り出しましょう。明日話す予定だったから、気持ちの整理を終わらせて話したかったわ。でも早いほうがいいわよね。
「ア──」
「ここ最近は忙しくて、週に一度のお茶や面会が減って申し訳ない」
「いえ。……いろいろ、と忙しいのでしょう」
「…………」
いつもなら一緒にいて話をしているだけで幸せなのに、今日は棘のある言葉しか口をついて出てこない。アシュトン様は弁明も、誤魔化しもしない。ただ困った顔をするだけ。
その姿を見てまた瞳が潤んだ。
きっと自分で好かれようという気持ちが薄れてきてしまっているのだろう。期待しても裏切られることばかりだった。
一度だって私と交わした約束を守ってくださったことなんてないもの。それでもこの三年間だけは穏やかだった。普通の婚約者よりも距離は遠かったかもしれないけれど、それでも穏やかな時間で、救われたのも事実だ。
「来週はオレーリア様のお誕生日ですね。パーティーの準備などは進んでいるのですか?」
「──っ」
ああ。そういえば姉が戻ってくる前に、そんな話をしたのだった。姉が帰ってこなければささやかながらパーティーを開いたのかもしれない。アシュトン様からの贈物はなにかと、喜んだだろう。
でも──。
「その日は姉が帰還したお祝いをするらしいですよ。王妃様が嬉々として教えてくださいました」
「……あ」
ハッとしたアシュトン様に、私はにこやかに微笑んだ。悲しくても笑えるのは王女としての教育の賜物だわ。
「本当は明日の、お茶会で伝えようと思ったのだけれど……」
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