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泣きたいのに泣けないような、そんな思いが伝わってきた。
アシュトン様にも、何か事情が?
ふとそう思って、本当はダメだけれど分析魔法術式を発動した瞬間、《誓約》と《隷属契約》が浮かんだ。
「え」
その単語に目を疑った。詳しく契約内容を解析すると、一つは騎士としての誓いであり、こちらは健全というか騎士なら叙勲式で結ぶものだ。
問題は《隷属契約》で、なんと契約者は王妃及びクラリッサだった。
その内容はとてもシンプルで、優先すべきは現王妃とクラリッサであること。そして五年間、オレーリアと婚約を結ぶ──だった。
「──あっ」
自分の中の大事な何かが壊れた音がした。
アシュトン様が何故、苦悶の表情を見せたのか。私を思っていたからじゃない。五年間、私と婚約を続けることが《契約内容》だったからだ。一瞬でも好意を寄せられていたのだと思って、浮かれそうになった自分が馬鹿みたい。
だから婚約者として、最低限の接し方をしていたのね。
だから姉を優先していた。
だから──最初から愛されてなどいなかった。彼には選択肢がなかったのだから。
「……アシュトン様は《隷属契約》を結んでいたのですね」
「オレーリア」
彼の顔が酷く歪んで、今にも泣きそうだった。ああ、この方もまた私とは違うけれど、雁字搦めの中にいたのですね。この方も被害者だったのだ。
「事情は分かりました。今まで気付かずにいて申し訳ございません。……私がもっと早く気づいて婚約を結ばなければ、五年もの間、貴方様を縛り付けることはなかった」
「……っ、それは」
「今直ぐに婚約解消ではなく、五年目となる私の誕生日に婚約解消はいたしましょう。それならなんのペナルティもなく契約解除されますわ」
被害者は彼だったのだから、泣きそうになるな。なんでもない風に振る舞うの。王女の仮面を付けていれば笑顔を保てるわ。オレーリア、あと少しだから。
「オレーリア様、……っ、私は」
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