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「いいのです。これで吹っ切れましたし、この国にも未練はなくなりました。私の今までの努力も、実績も、名誉も全部、取り戻してからいなくなります。その後この国がどうなろうと私には関係ありません。……アシュトン様も、《隷属契約》が解除されたら、自身の身の安全を第一に考えてくださいませ」
抱きしめられた温もりが温かくて、心地よくて離れがたかった。本当にこの人が好きだったのだと実感しつつも、失恋したのだと認めたくない自分がいた。
《隷属契約》のせいで私を大切にできなかったとか、契約が終わったら私を自由にするとか、そんな夢みたいな想像を一瞬だけして──頭を振った。そんな訳が無い。
彼は王妃と姉に気に入られて、《隷属契約》を結ばれて、都合のいい人形にさせられた被害者だ。もしかしたら私が彼を好きにならなければ、このような傀儡にならなかったかもしれない。五年間、望まぬことばかりをさせられたアシュトン様に申し訳ない。
「アシュトン様、巻き込んで申し訳ありませんでした」
「……っ、オレーリア、私は……っ」
苦悶の声に胸が痛くなる。これ以上、彼の口からどんな残酷な言葉が出てくるのか、考えたら体が震えた。
そうよね。知らなかったとはいえ、私が彼を見つけなければ……ここまではされなかったはずだわ。私の味方は引き離され、裏切られて離れていった。そうやって私の陣営を真綿で首を締める形に追い込んだのは、現王妃だ。
静かに王国を去るつもりだったが、遠慮はいらないようね。最後に復讐ができそうで良かった。
「私の功績の全てを、この国に支払ってもらいますわ」
国のためと思っていたけれど、もうどうでもいいわ。私の心はぐちゃぐちゃで、ひび割れて元には戻れない。歪んで、壊れてしまった。もともと前世の記憶を取り戻したのも、オレーリア自身の心が摩耗して、壊れてしまったからだ。前世の私が補填する形で保っていたようなもの。
ずっと前から私は壊れて、歪で、それでもいじらしくも信じてみようと手を伸ばした。この国の人たちには誰も届かなかったけれど。
でもウォルトや、空中都市の人たちはそんな私を凄い人だと認めてくれたから、いいのだわ。
結局最後までアシュトン様の笑顔を見ることはなかった。
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