第四夜

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第四夜

総務部の伊東里紗と柴田祐太が付き合っているらしい、と美和に教えたのは、終業後にトイレで顔を合わせた畑中洋子だった。 そうなんだね、と美和は適当に相槌を打った。 給湯室と女子トイレは、女性社員たちの情報交換の場だ。 近くの店で二人で食事に行くだけで、三日もしないうちにこんな噂になるとは、女子の情報網はおそろしい。 明日になったら全女性社員が噂を知っているのだろう。 社内でも会社の周りでも、誰に何を見られて何を言われるかわからない。改めて油断しないように気をつけなくては、と思う。 噂の当事者になってしまった柴田は、昨日から大阪に出張で今夜の帰りは終電間際の予定と聞いている。 こういう時、営業部員は社内にいない時間が長いので、しばらく噂を聞かないでいられる。でも、総務部はそうではない。 里紗はこの噂をどう思っているんだろう。 本当のことを知っているだけに、気がかりではある。 ただ、今は、それどころではなかった。 昨日から喉の調子が悪かった。 オフィスでも自宅でもクーラーを長く使っていたので、乾燥と外との気温差で体調を崩したようだ。 定時で上がってそのまま駅に向かったが、電車移動中に急速に状態が悪化していくのを感じた。 どうにかアパートにたどり着き、自分の部屋に入る。 服を着替えただけで、そのままベッドに横になった。 とにかくだるい。寒いのか暑いのかもわからなくなってきた。 吐く息が熱いのだけはわかった。 これから熱が上がる予兆だ。 体中がみしみしきしむように痛む。 そう感じたのが最後、一気に深い眠りに落ちていった。
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