第四夜

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肩を誰かの手でがっしりとつかまれた。 「美和さん」 はっきりと柴田の声で呼びかけられて、ハッとした。 目の前に、柴田の心配そうな顔があった。 「どこか痛いの?」 柴田は指で美和の額にかかる髪を除いて、頬に大きな手を当てた。 部屋の明かりが眩しい。 今、自分のいる場所が、自分の部屋のベッドの上だということがわかった。 「……柴田くん」 かすれてはいたが、声が出せた。 「すごくつらそうだよ。熱高いし、病院行こうか?」 柴田は表情を曇らせ、近くの夜間診療の病院を検索しようとスーツのポケットのスマートフォンを手に取った。 記憶が戻ってきて、ゆっくりと頭が働きはじめた。 「大丈夫。風邪だと思う」 「ドアの鍵が開いてたよ。締め忘れたの?」 「あ……、そうかも」 柴田に指摘されて、記憶を振り返って見ると、鍵を開けたことは覚えているが、そのあと中に入って締めた記憶がない。 とにかく開けて部屋に入るだけで精一杯で、戸締りまで気が回っていなかったかもしれない。 「危ないよー。襲われたらどうするの」 柴田は大きく嘆息してベッド脇にしゃがみこみ、美和の手を握った。 「全然連絡つかないし、来てみたら鍵あいてるし、美和さん意識なくてぐったりしてるし。心臓止まるかと思った」 そう言われて美和は部屋の中に目を向け、床に転がったバッグの中にiphoneを入れっぱなしにしていたことに気付いた。 きっと山ほど彼からのメッセージと着信が残っているのだろう。 「具合悪い時は連絡してよ。今更おれに悪いとか思ってたら怒るよ」 美和の様子がわかって安心したのか、柴田はようやくこわばった表情を和らげて、わざと不満げに唇をとがらせて見せる。 「帰りの電車で急に体調悪くなって、帰ってそのまま寝ちゃってたみたい。心配かけてごめんね」 「ホントに無事でよかった……」 柴田の方が泣き出しそうな顔をして、布団に顔を埋めて突っ伏した。
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