第五夜

2/4
前へ
/34ページ
次へ
離れたところからでも、どんなに多くの人でにぎわう雑踏の中でも、美和の姿をすばやく見つけることができる。 これって特技かも、などと冗談めいて考えるくらいに、地下鉄の出口を出てすぐに柴田は彼女を発見できた。 付き合うようになって気付いたことだが、二人で会う日、美和はなるべくスカートをセレクトしているようだ。それまで職場ではパンツをはいている印象だったが、スカートの日が増えた。 意識的にしろ、無意識にしろ、美和が自分と会う時に着る服を彼女なりのなんらかの特別な基準で決めているように感じて、柴田は楽しみにしている。 指摘するとかえって困らせてしまいそうだから、今のところ美和にはその発見を伝えていないけれど。 今日の彼女は白いロングスカートをはいていた。 パステルカラーのニットは彼女の柔和な印象に合っている。 「美和さん」 美和も柴田の姿を見つけて、にっこり笑った。 「待った? ぎりぎりになっちゃった」 「ううん、私もさっき来たとこだよ」 一緒にビルの入り口に入り、チケットを見せて会場に入る。 「美和さんと一緒に映画館に来るのは初めてだね」 「うん」 半年付き合っても、まだ一緒にやっていないことがあるものだな、と美和は思った。 柴田は美和の手を握り、何か飲み物いる?と聞いた。 二人はペットボトルの炭酸水を買って、薄暗い会場内に足を踏み込んだ。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加