第六夜

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第六夜

TVであれ映画であれ、今までラブストーリーを自分から見ることはなかったのだが、美和に誘われた映画の試写会で見たのはいわゆる恋愛映画だった。 美和も客先から急にもらったチケットで、詳しく内容を知らないまま観ることになったようだった。 大学時代に付き合った二人が別れた後、社会人になってから偶然再会して。 ってそれ、まんまこの前リアルにあったやつなんだけど。 柴田は途中で現実と同じ展開なのに気付いて、思わず美和を見た。 美和はそこはあまり反応していなかった。 どちらかといえば別の登場人物に共感しているために、主人公に起こることが自分の身に起きた出来事と同じとは考えていない様子だった。 柴田は共感する人物の感情に合わせて美和が表情を変えるのをいとおしく見ながら、彼女の頬に指先で触れた。 美和は、振り返って微笑んでくれた。 柴田も微笑みを返して、美和の左手を握って、再びスクリーンに目を戻した。 よくある話、なのだろうか。 映画では、主人公の女性が別れた男性への未練をひきずったままだった。 それがあったから最後再び結ばれることになるのだが、美和はどうなんだろう。 映画の内容についての感想を美和も言わなかったから、聞きそびれたままでいる。 オフィスでの再会があったあの日、美和は相手の男性に「選択肢としても完全消去した」と断言していた。柴田に話した時も、会社で再会したのはまったくの偶然で、それだけだ、とも。 それ以上何もない、と柴田も信じてきたのだが、ああいうストーリー展開を見てしまうと、今もまだ元彼を想う気持ちを相手にも柴田にも言えずにいるということはないのか、気になってしまう。 一方で、美和の話した通りそれ以上のことはないのだとしたら、今更また掘り返すのもしつこい話で、美和を信じていないように思われてしまいそうだ。
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