第一夜

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駅から美和の自宅に向かって二人で肩を並べて歩く。 徒歩で約5分の道だ。 23時を回った住宅街は家から漏れる明かりと街頭の明かりが道を照らすだけで、薄暗い。 時々家からテレビの音や誰かの声が聞こえる他には、基本的に静寂だ。 柴田は美和の手を握って歩きながら、頭の中で昼間会社で聞いた会話を何度もループさせていた。 『そんなふうにまったく思ってないでしょ』 『選択肢としておれも残しておいてって言っただろ、美和』 『残すわけない。とっくに完全消去してるから』 苛立った美和の声と、相手の遠慮なく甘えるような話し方。 しかも、美和、と名前で呼んでいた。 駅からの道を柴田が押し黙っているのは珍しい。 いつもどちらかといえば柴田が話しかける方なのに、と美和は無表情な柴田の横顔を見上げた。 もちろん美和にも思いあたる理由、話しておきたいことがあるのだが、自分からは切り出せずにいた。 「柴田くん?」 「うん……」 柴田は一度生返事をしたあと、ちょっと話したい、とすぐ先の公園を目で指して美和を誘った。
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