第一夜

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公園のベンチに並んで座っても、柴田はしばらく黙っていたが、やがて意を決して口を開いた。 「言いたくなかったら言わなくていいんだけど」 「うん」 「今日の午後、給湯室で話してた人って……元彼?」 柴田にまっすぐ視線を向けられ、美和は目をそらさずに、うなずいた。 隠すつもりはなかった。 「話してたこと、聞いてた?」 「最後のちょっとだけ。美和さんがあんなふうに感情的に話すの初めてだったし、相手の人が名前を呼んでるのを聞いた」 「心配かけて、ごめんね」 美和は、まっすぐ柴田の目を見て、ゆっくり話しだした。 「あの人は、大学の先輩で何年か付き合ったんだけど、大阪の会社に転職して行っちゃって、そのまま別れた。もう連絡もとってない。 今日は小原さんと打合せで来ていて、本当に偶然で、相手も私も会うと思ってなかった。ほんとに、それだけだよ」 「うん」 柴田はベンチの上に置いた美和の手を握って、うなずく。 「美和さん。話してくれて、ありがとう」 美和は指で彼にもらった首元のネックレスに触れた。 「私ちゃんと柴田くんに守られてたよ。前みたいに流されないでいられたし、実際に柴田くんが助けにきてくれた。お守り最強だった」 「それなら、よかった」 柴田は微笑んで、美和の上唇を自分の唇でついばむように触れた。
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