第二夜

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最初は言葉を探しながら恐る恐る話す美和と嘉人だったが、ジョッキ2杯を飲み終える頃には、柴田をはさまずに会話をすることにも慣れてきた。 「今も野球、やってるんですか?」 「いや、もう野球はやってないです。 今は、eスポーツやってます」 「eスポーツ?」 「オンラインゲームの競技会に出たりしてます」 「嘉人はSEで、ゲームつくる仕事してるんだけど、競技大会出たり、YouTubeの実況チャンネルでも有名なんだよ」 美和には馴染みのないジャンルのことには、柴田が言葉を加えて教えた。 美和は素直に驚いて、貴重なものを見るように目をキラキラさせた。 「そうなんだ。私、人気YouTuberに会うの初めてです」 「うわー、新鮮。そんな反応、初めてです」 嘉人はうれしそうな顔をする。 「次、何飲みます?」 「あっ、じゃあ、生レモンサワー」 「祐太は?」 「おれも、生レモンサワーにする」 「すみません、生レモンサワー2つ、生1つ」 嘉人の追加オーダーを受けて、学生アルバイトらしい女性店員が、「はーい!生レモン2、生1」と元気よく応じた。 「嘉人、唐揚げ」 柴田が皿に残ったままの鶏の唐揚げを、箸でつまんで嘉人の皿にぽいと分け、空いた皿を端に寄せる。 「祐太、これ食って」 「ん、わかった」 嘉人が突出しで出されていたもずくの小皿を柴田に押し出し、柴田が受け取る。 目の前のそのやりとりがあまりに自然で、長年の付き合いで互いの好みや苦手なものを心得ていて、いつもやってるんだろうな、と美和は思った。 そういえばプライベートで柴田が近しい人と会話するのを見たことがなかった、と気付く。 好きな人の新しい一面を発見するのは楽しい。 「美和さん、どうかした?」 美和が黙って二人の様子をじっと見ているのに気付いて、柴田が顔を覗き込む。 「柴田くんのそういうとこ、初めて見た。 兄弟みたいに仲良しだなぁ、と思って」 美和はニコニコして答える。 「美和さん、笑顔がめちゃくちゃかわいいです」 嘉人がテンション高めに言って、片手を美和の目の前に伸ばして握手を求める。 「ファンになりました!」 美和が思わず自分の手を出そうとした時、柴田がバシッと嘉人の手の平を叩いた。 「許可なく触んな」 嘉人は手を引っ込めて、あきれた顔を隠さず言う。 「お前、独占欲出しすぎ」 「やなもんはやなんだよ。それに勝手に下の名前で呼ぶな」 「マジか。ヤキモチも大概にしろよ。嫌われるぞ」 嘉人はそう忠告し、美和に言う。 「こいつの束縛がつらくなったらいつでも言ってください。おれはいつでもウェルカムなんで」 「嘉人は絶対ダメだから、美和さん」 「冗談も通じないのか。重症だな」 二人のやりとりを黙って見守っていた美和が、たまらず声を上げて笑い出した。
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