第二夜

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「嘉人くんと柴田くんがとっても仲よしで楽しかったー」 帰り道、美和が思い出し笑いしながら感想を言う。 隣を歩く柴田が不満そうな顔をしているのに気付いて、驚いた。 「……どうしたの?」 「美和さん、それやだ」 「何が?」 きょとんとする美和に、柴田が言いにくそうに切り出す。 「嘉人くんと柴田くん、ってなんであいつは名前なわけ?」 「えぇー、そんなこと?」 美和は目を丸くした。 柴田は唇を尖らせる。 「だって変じゃん」 「柴田くんがそう呼ぶから、そのまま言ってただけだよー」 他意はない。 でも、そんなにお望みであれば。 美和は柴田の腕に自分の腕をからめて、彼の顔を見上げた。 「祐太くん。私が好きなのは祐太くんだけだから、安心してください」 「……うん」 柴田は自分のむき出しの独占欲からの発言を今更恥ずかしく思ってバツの悪い顔を見せながら、おとなしくうなずく。 美和は、今から30分前、別れ際の嘉人との会話を思い出していた。 柴田が会計をするのを店の外で待つ間、嘉人が急にあらたまった様子で美和の目を見て、腰を折って頭を下げた。 「あいつ、ホントにいいやつなんで。どうぞよろしくお願いします」 「あ、はい! 私こそ、これからもよろしくお願いします」 美和はあわてて、バッグを持った両手を前にそろえ、ペコリと頭を下げて返す。 さすが元・野球少年は礼儀正しい。 「前に祐太が職場に好きな人がいるって言ってたのが、美和さんだったんですね」 嘉人は柴田がその話をした時の記憶を思い出してなのか、口元を緩めて微笑みながら言った。 「祐太はほんとに裏表なくて、あのまんまなので。言うことがド直球すぎて驚くかもしれないですけど、言葉どおり信じてもらって大丈夫ですから」 よくわかってるなあー、と美和は嘉人の顔をまじまじと見た。 たしかに、柴田の言葉はいつもストレートで、逆に言葉の裏を読みたくなるくらいの、恥ずかしくなるようなことも平気で言う。 それを不安に思う女性もいるだろう、ということを、嘉人は心得ているのだ。 「さすが、長い付き合いですね。覚えておきます」 美和が大きくうなずくと、嘉人は照れ臭そうに頭をかいて両手をズボンのポケットに入れた。 「美和さん?」 ぼんやりしていたのを柴田に顔を覗き込まれて、美和は微笑みを返した。 「大事な友達に紹介してくれたの、うれしかった。ありがと」 「うん」 柴田は右腕にからまる美和の手の甲を、左手で包む。 「あいつ、ホントにいいやつだったでしょ?」 同じこと言うんだね、と美和が笑い出した。 「何、あいつ。おれのことそう言ってた?」 「うん」 「いつの間にそんな話してんのー?」 「あはは、やかないでよ」 美和はこつんと頭を柴田の腕に押しあてて、笑った。 「柴田くんのこと、どうぞよろしく、って言ってたよ」
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