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 高校に入学したばかりの私は、校舎の廊下を歩きながら、新しい環境に馴染むことへの期待と不安を胸に抱いていた。中学時代、ミフユが部活を去ったことといじめられていたことで仲間を信じることに対して強い恐れを感じるようになってしまった。だからこそ、誰も知らない高校に進学して一度リセットすることを決めたのだ。  しかし、新しい環境に身を置いても、心の中に根付いた不安は消えなかった。なにか新しいことを始めることにもためらい、それが日々惰性で過ごしている感じがして嫌だった。 「あれ? 新入生?」  大きめのロングTシャツと半ズボンの女子が話しかけてきた。バドミントンの格好とは全然違う。あんなに大きめのを選んだらラケットを振るのに邪魔だろうとそう思った。 「もしもーし? 聞こえてる?」  つい考え込んでしまい、無視してしまっていたことに焦る。「すいません」と反射的に謝って頭を下げる。そして「じゃあ私はこれで」とその場を離れようとすると「待って」と腕を掴まれる。 「バスケ、興味ない?」  そう誘ってきたのが、チアキさんだった。半ば強引に連れていかれて見学させられた。ステージ前に置かれたパイプ椅子に座り、ぼんやりと練習を眺めていた。  次第にチームメイトが一丸となってボールを追いかけ、互いに声を掛け合いながらプレーする姿に、チナツは強く心を動かされていた。この中に自分がいたら、楽しいだろうなとも思った。でも同時に過去の苦い経験が頭をよぎる。バスケ部に入ることで、また同じような苦しみを味わうのではないかという不安があった。 「どう? うちのチームは」  チアキさんが練習の合間に話しかけてくれた。キラキラしていて、かっこよくてミフユの姿を連想させた。 「いい雰囲気ですね……すごく」  中学時代と比較したことが失礼に思えるほど、本当にいい人たちなんだなと思った。サボらないし、だべらないし、何より人をバカにするような雰囲気が感じられない。 「いいなぁ……」 「じゃあ入りなよ」  突然で驚き、戸惑ってしまう。「なんで……」とつい口から漏れてしまい慌てて押さえるがもう遅かった。気を悪くさせてしまったのではないかと心配になって恐る恐る顔色を窺うと、明らかに困ったような表情をしていた。  また謝ろうと口を開きかけると「うーんと……悪く取らないでほしいし、正しいかどうかは自分で決めてほしいんだけど」と前置きをされる。何を言われるか身構えていると、 「背中を押してほしそうな気がしたから」  と微笑みながら伝えてくれた。 「あと、私に似てるなって思ったから、かな」  思わず泣きそうになる。そしてこの人も何かあったのだろうか、と考えてしまう。もしこんなキラキラした人が過去を乗り越えて今に至るなら、私もそうなりたいと強く思った。
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