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「ねぇ、ちょっと話できる?」  朝練が終わり、体育館に残された静かな空間で、ミフユが深刻そうな顔で話しかけてきた。汗をタオルで拭いながら、「何?」と返すと、彼女は一瞬躊躇しながらも決意したように続けた。 「あのさ、部活、一緒に辞めない?」  一瞬、驚きで言葉が詰まった。疑問が頭をよぎる。ミフユはこの地区でも名の知れた選手で、シングルスの連覇も成し遂げたばかりだ。そんな彼女が辞めたいなんて――。 「……大会はどうするの?」思わず、そう聞いていた。私たち三年生にとって、最後の大会が一ヶ月後に迫っていたから。 「いいよ。どうせ勝っても仕方ないし。」  その無感情な返答に、胸の奥がざわついた。どれだけ努力しても、私はミフユのように上手くなれない。だからこそ、勝てる彼女の言葉に対して、怒りがこみ上げてきた。 「悔しくないの……?」  それは、まるで自分自身に問いかけるかのようだった。しかしミフユは、まるで当然のように「悔しくないよ」と言い放った。その瞬間、怒りが私の中で膨れ上がった。「あっそ」と、ぶっきらぼうに返して無言で着替えを再開した。  ミフユが本当に辞めるなんて、思いもしなかった。  放課後、部長から声をかけられた。「話があるって言ってたよね?」朝の出来事が頭によぎり、どうしようか迷う。朝の怒りもまだ消えていないが、それでもミフユと一緒に勝ちたいという気持ちが強かった。 「あの、ミフユと一緒にダブルスに出たい」 「ミフユと?」部長は驚いたように目を見開いた。その後少し考えるそぶりをして、「ねぇ、あいつがチームの悪口を言ってるって聞いたけど、それって本当?」と、部長は私に問いかける。  ミフユがそんなことを言っているのを聞いたことはない。どう答えるべきか悩んでいると、朝の会話が思い浮かんだ。 「……勝っても仕方ないんだって。試合なんかどうでもいいって言ってたけど」  それを口にした瞬間、ミフユがどんな顔をするだろうかと思った。少し痛い目を見るくらいならいいよね。もしかしたらそれでダブルスを組んでもいいと言われるかもしれないし――そう思ったのだ。 「何それ、ムカつくんだけど」  部長は私の言葉を聞いて、すぐに不機嫌そうな顔になった。その反応に驚いたが、次の瞬間には、チーム全体が同じようにミフユに対して不満を口にし始めた。 「やっぱり調子に乗ってるよね。」 「いなくなれば、もっと楽しくなるのに。」  翌日、部長から「ミフユが辞めた」と聞かされたとき、私は立ち尽くした。本当に去ってしまったのだ。 「残念だったね、ダブルス」  部長の声が遠くに聞こえる。そのときに私は裏切られたと思った。
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