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「あれ、寧々さん? 一人?」
「えっ? 津島課長? どうしたんですか、こんなところで」
「ここは昔から一人で飲みたい時に来るんだ。社の誰にも教えてない隠れ処なんだよ」
「そうなんですか」
「誰かと待ち合わせ?」
「いいえ。たった今、振られました」
「それは彼なのかな?」
「いいえ。女友達です。女の友情なんて信用出来ません」
「おいおい、それは穏やかじゃないね。じゃあ相席いい?」
「どうぞ。私なんかで良かったら」
「こんな若いお嬢さんと飲めるとは思ってなかったな」
「そんな。若くないです。二十三歳っていったら、おばさんですよ」
「君が、おばさんなら十年も歳をとってる僕は、お爺さんかな」
「あっいえ、そんな事ないです。課長は、お若いです。中学生の従姉妹に言われたんです。二十三歳は、おばさんだって」
「中学生から見れば君が大人に見えるからだと思うけど」
「大人か……。未だに大人に成り切れてないような気がします」
「それはどうしてなのかな?」
「夢も叶えられていないし毎日の生活だけで手一杯だから」
「君はデザイナー志望だったね」
「はい。でも本社の面接も他社も何社か受けたんですけど何処からも採用されませんでした。才能ないのかななんて……」
「あの面接の時、君が持って来たデザイン。僕はすごく良いと思ったんだ。まだ諦めるのは早いと思うよ」
「ありがとうございます。課長にそう言っていただけるだけで何だか報われた気がします」
何故だか父親を思い出した。父は何時でも私の味方だったから。東京の大学の服飾科に進みたいと言った時も父だけは賛成してくれた。
帰るつもりだったのに課長に愚痴を聴いて貰いながら、かなり飲んでいたような気がする。父と一緒に居るような安心感を知らず知らずのうちに感じていた私は警戒心もなくしてしまっていたようだった。
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