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『皆さんに、大切なお知らせがあります』
伊坂音葉はその言葉に目を開けてスマホを見た。ベッドに座って横に置いたスマホからは毎週土曜日の二十時にネット公開されるラジオが流れていて、番組の終盤に聞こえて来た言葉がどう続くのかは想像に難くなかった。
『一年半の間、皆さんと一緒の時間を過ごして来たこの番組ですが、次回が最終回となります』
「次で終わり……!?」
音葉は驚いた声を零してスマホを両手で持った。ラジオ番組“リュウラジ”のロゴが表示されているだけの画面を音葉は凝視する。自室に一人きりだから、その驚きと無意味な行動に反応が来るはずもなくラジオだけが時を進めていく。
『ぼくの個人的な事情で番組を終わりにする事にしました。その辺りの話も最終回に出来ると思います。今言っちゃうと最終回で上手く話せなくなりそうですからね。……それでは、来週もこの時間にお会いしましょう。お相手はリュウでした』
いつもの結びの挨拶が音葉は虚しく思えた。“リュウラジ”は個人配信の事前収録ラジオ番組で今でこそフォロワーが五万人居るが、音葉が視聴し始めた一年前は三千人程だった。パーソナリティであるリュウが視聴者のメールでの相談に答えたものを、誰かがSNSで文字起こしして話題になったのが人気が急上昇した切っ掛けだった。いつも通りのリュウのラジオなのに急に何なんだろう――とその時の音葉は、大切に隠してたものが取られてしまったように感じた。人気が出ても“リュウラジ”のスタンスは変わらなかった。リュウの穏やかな語り口。相談には親身に優しく、好きな漫画の事を話す時は少し熱くなった後に照れた声をしていた。“リュウラジ”に送ったメールが読まれた事はなかったけれど、毎週土曜日の夜を音葉は楽しみにしていた。
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