百年眠別

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 音葉が“リュウラジ”を聴き始めたのは、大学に入って三ヶ月くらい経った頃だった。隣の家の窓が開いていて、そこから、 『今週も始まりました、“リュウラジ”! こんにちは、リュウです。今日も宜しくお願いします』  と聞こえて来たのが切っ掛けだった。  隣の家には音葉の幼馴染の辻流藍(りゅうらん)が居る。幼稚園から高校まで同じ所に通い、親同士の交流もあったお陰で何かあれば話すし、家の行き来もするけれど二人きりで出掛けたりはしない。友達と言うには近すぎて、兄弟未満のような関係が中学生まで続いていた。高校生になってからは何となく距離が出来て殆ど話さなくなった。いつまでも幼馴染と一緒なんて恥ずかしい、と音葉は自分にそう言い聞かせて自然消滅を受け入れようとした。  高校二年生の夏に、流藍から花火大会に一緒に行かないかと突然誘われた事があったが、大雨の所為で花火大会が中止になって行けなかった。 「この雨なら中止になっても仕方ないよね」 「そうだな」  音葉が流藍とした本当に最後の会話だった。
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