百年眠別

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 翌日になって、音葉は“リュウラジ”の情報をスマホで調べた。スポンサーとトラブル、リュウは重い病気……と憶測が飛び交う中で、  ――コールドスリープの宣伝に利用されている  というコメントが音葉の目を引いた。コールドスリープとは、人間の体温を低くして仮死状態で眠らせる技術だ。肉体の時間を止め、百年後に目を覚ます事が出来る――という事になってはいるが、運用されてからまだ二十年しか経っていない。コールドスリープから“起きた者”は未だ一人も居なかった。  コールドスリープに自ら申し込む時は現代では治せない肉体的・精神的な病気にかかった場合が多いだろう。しかし、政府から通達が突然来る事がある。成人していれば誰にでも通達される可能性があり、どんな基準で選ばれているのかは公開されていなかった。コールドスリープは食糧危機や地球環境の改善にも役立つという触れ込みであり、政府からの通達は一言で言えば安楽死勧告も同然だった。コールドスリープを拒否する権利はもちろん誰にでもあるが、それには途方もない手続きに時間や体力と気力を奪われながら衆目に晒される事になる。実現不可能な拒否権を与え、否定する発言に目を光らせておきながら、政府はコールドスリープは上手く運用されていると主張し続けている。
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