百年眠別

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 音葉は流藍に話し掛けられないまま高校二年生の時の待ち合わせ場所であるアンダーパスの近くに向かっていた。花火大会当日だから浴衣姿の人もちらほら見掛けたが、音葉は普段通りの恰好だ。三年前の待ち合わせに縋る滑稽さを音葉は自覚していた。アンダーパスの所で花火が始まる時間まで居よう。流藍は来ないだろうけれど、満足出来たら少しは先に進める。音葉は花火大会の客ではないような顔をしてアンダーパスまで来て――流藍を見つけた。今の流藍の容姿は見掛けた事があるから知っている。短めの茶色い髪から覗く耳にはピアスが三つあって、背が高いからすぐに見つけられた。音葉が見ていると、流藍が顔を動かして音葉に気付いて目を瞠った。まるで、来ない待ち合わせ相手が現れたかのような表情だった。音葉は流藍の正面まで行ったが、何を言えばいいのか分からなくて俯いた。 「……何で」  流藍の一言が音葉と同じ気持ちを表していた。 「そっちこそ、何で居るの?」 「お前なんか待ってねぇよ」 「……じゃあ帰るね」  音葉は本当に自分の勘違いだと思ってそう言ったのだが、流藍は慌てて音葉の手首を掴んだ。今を逃したら最後だと言わんばかりに。 「音葉。待ってくれ」 「流藍、痛い」 「わ……悪い。大丈夫か?」  音葉は掴まれた手首がほんの少し痛くて言ったが、流藍が本気で謝ってくるとは思わなくて動揺してしまった。幼馴染の軽口、流藍特有の言い方はどこに行ったのか。 「大丈夫だけど。流藍は私を待ってたの?」 「……そうだ」 「いつから?」 「待ち合わせが駄目になって、次の年から毎年」 「毎年!? 誘ってよ!」 「タイミングがなかったんだよ。今更だろ」 「高二の時は突然誘って来たじゃん」 「……あれは、そういうタイミングだったんだ。待つのは今年で最後にするつもりだったから、音葉が来てくれて良かった……あっ、一緒に花火見るんだよな?」 「見るよ。その為に、流藍に会う為に来たんだから」  流藍が少し不安そうに訊くところなんて想像した事がなかった音葉は、笑みを含んだ声でそう言った。子供の頃のように流藍と一緒に話しながら歩いていても、懐かしさよりも新しい何かが始まるような気持ちがした。
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