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「君たち、真実山は初めてかい?」
「は、はい。初めてです」
「やっぱりそうかい。じゃあ、この山の一番の楽しみ方を教えてあげよう」
「一番の楽しみ方?」
好男が首を傾げると、おじさんは麗子の隣に立って口を開いた。
「うちのカミさんは、どんな人だーい?」
【年がら年中旦那を引っ叩いている鬼嫁でーす】
おじさんは朗らかに笑い、「こりゃまいった」とおどけた。
好男と麗子は驚き言葉を失った。やまびこが、質問に返事をした?
「聞いてのとおり、この真実山のやまびこは少し変わっていてね。質問をすると、それに答えてくれるんだ」
いや、少しどころの騒ぎではない。今までたくさんの山を登ってきたが、そんなやまびこは聞いたことがない。隣で麗子が「すごーい!」と手を叩いた。
「ま、やってみれば分かるよ。せっかく来たんだから、楽しんでいくといい」
おじさんはそう言うと片手を上げて去って行った。残された好男と麗子はお互いに顔を見合わせる。麗子の額には「ワクワク」と文字が書いてあった。
「ねぇ、ねぇ。私が先に質問してみていい?」
「ふふっ。どうぞ」
麗子の嬉しそうな顔を見、好男はますますこの山に登って良かったと思った。
麗子はしばらくうんうんと唸ったのち、「そうだ!」と顔を上げた。
「好男くんは私のことを、どう思ってますか?」
「お、おい、やめろよ。恥ずかしいだろ……」
予想外の質問に好男は顔を赤らめた。周囲から「あらあらぁ」と声が聞こえる。これじゃまるで羞恥プレイだ。
なんて、思っていたのに……
【好男さんは麗子さんのことを、ATMのように思っています】
刹那、二人の間を冷たい風が吹き抜けた。
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