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サムは、わたしが家事が苦手なことも理解した上で雇ってくれたのだと、すぐにわかった。
実は彼は、自分の身の回りの世話をひとりでなんでもできたからだ。
祖母と同じ小さな町の出身であることからもわかるように、サムは田舎のごく普通の家庭に育った。
大人になり小さな運送会社を設立したのが最初で、そこから多方面に事業を拡大していき、実業家としての地位を自ら築き上げていったらしい。
つまり、サムはお坊ちゃまなわけではないから家事もひと通りできるというわけだ。
幼馴染の孫が失業して路頭に迷いつつあると聞いて、手を差し伸べてくれたのだろう。
サムと一緒に料理を作るのは楽しかった。
「ほら、やってみるものだろう? やればできるじゃないか!」
上手にできたときは大げさなぐらい褒めてくれるのが、わたしにはくすぐったくもあり喜びでもあった。
「うちのおばあちゃん、サムと結婚すればよかったのに……」
そうすれば、祖母は贅沢な暮らしができたにちがいない。
思わずつぶやくと、サムはふふっと笑った。
「サマンサは、町にふらっと立ち寄った男前に一目惚れしてね。そいつを追いかけていった。あとから結婚したと聞いたよ」
祖父のことだろう。
わたしが赤ん坊の頃に病気で亡くなったと聞いている。写真の祖父はたしかに男前だった。
「サマンサの手紙にはよくブレンダのことも書かれていたよ。かわいい孫と一緒に暮らしているってね」
「そうだったんですね」
祖母が手紙でよくわたしのことを触れてくれていたからこそ、サムもすんなり受け入れてくれたにちがいない。
「きみの両親のことは残念だったけどね、少なくともサマンサはブレンダとの暮らしを楽しんでいたよ」
そう言ってもらえると救われる。
男と駆け落ちのようにして10歳のわたしを捨てた母親の顔は、すでにうろ覚えだ。
そう。祖母も母も、惚れっぽい性格だったのだ。
だからわたしは、イケメンはむしろ敬遠しているし、男性と付き合うときはじっくり内面を選んでから決めるようにしている。
「近いうちに、身寄りのない子や家族と暮らせない事情のある子どもたちを支援する基金を設立しようと思っているんだ」
サムは慈善活動に意欲を見せていた。
わたしと出会う少し前に、彼は立ち上げた会社の経営をすべて後進に任せたところだった。そしてこれからは、過酷な環境下での生活を強いられている子供たちの支援活動をする夢を語っていた。
わたしもその考えに賛同し、ぜひ活動を手伝いたいと言っていたのだけれど――――。
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