第4章 取り戻した記憶

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 サムとの別れは突然だった。  コーヒーを飲みながらくつろいで談笑しているときに、サムがふと話をやめて胸に手を当てた。   「おかしいな。胸が痛くてうまく息が吸えない……」  サムの顔色がみるみる悪くなっていく。    わたしは慌てて救急車を呼び、サムを励まし続けた。 「大丈夫よ、サム。すぐに元気になるから!」  しかしサムはお迎えが来たと悟ったのかもしれない。 「ありがとう。どうか幸せに……」  その言葉を最後に、あっけなく息を引き取ったのだった。    サムはいつの間にか、公正証書の遺言状にわたしへの項目を付け加えてくれていた。  それを知ったのは、お葬式のあと。  サムの弁護士から話を聞いたときには驚いた。  相場よりも多い退職金が用意されていただけでなく、慈善活動の基金設立をわたしに任せたいと書いてあったのだ。  その金額は、わたしがこれまでに見たこともないような桁だった。    サムには子どもがいないけれど、ほかの親族に遺産を渡す必要はないのだろうか。  弁護士に尋ねると、あっさり答えてくれた。   「法定相続人にあたるキンダーソン氏の兄と妹に対しても、それ相応の金額が相続されます」    反対に弁護士に尋ねられた。 「あなたにとって基金設立が難しそうなら、適任者に委託する方法もありますが?」  新たに基金を創設する方法なんて、わたしは知らない。  どうしようか……。  返答に困っていると、不意にサムの笑い声が聞こえた。 『ほら、やってみるものだろう? やればできるじゃないか!』    そうだ。やってみる前から怖気づいてどうする。  知らないなら勉強すればいい。   「サムの遺志を継いで、わたしが責任をもって進めていきたいと思います。時間がかかるかもしれません。力を貸してもらえないでしょうか」  鼻で笑われる覚悟で決意を述べると、弁護士は満足げに微笑んで頷いた。 「あなたはキンダーソン氏のおっしゃっていた通りのかたですね。実は協力するよう仰せつかっていたんですよ。頑張りましょう」 「よろしくお願いします!」  頑張ろうと誓った矢先に事件は起きた。  タブロイド紙の『ルーマー』に、わたしの名前がデカデカと載ったのだ。  サムとは愛人関係だっただの、莫大な遺産をネコババしただの、腹上死だっただのと、いったいどんな取材をしたのか適当な内容の記事に猛烈な怒りが湧いた。  調べてみたところ、この記事を書いたジェイク・ヘインズは編集長だった。  ルーマーのホームページには男前をひけらかすかのように顔写真まで載っていて、なおさら腹が立った。    そしてわたしは、ルーマーの編集部へと乗り込んだのだった。  
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