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翌朝、コーヒーの香りに誘われて寝ぼけ眼で1階に下りると、ジェイクが朝食を用意してくれていた。
「おはよう、ブレンダ。よく眠れた?」
「おはよう。よく眠れたわ」
前のアパートでも使っていたベッドで、しかもリリーを抱きながらだったこともあって、ぐっすり眠れた。
ジェイクはあの広いベッドにひとりで寝たんだろうか。
気になるけれど、そこを突っつくと一緒に寝たいと言われそうで、ふと浮かんだ疑問を頭の隅に追いやった。
ジェイクが用意してくれたのは、わたしの朝食だけではなかった。
鼻歌交じりにリリーのご飯も用意してくれている。
リリーのお皿には、ドライフードのほかに茹でたササミを少しトッピングしてあるではないか。
「暑くなってきて食欲が落ちているみたいだから」
ジェイクがリリーに笑いかけながらお皿をリリーの目の前に置く。
リリーはそれに飛びついて、美味しそうに食べはじめた。
「ブレンダはこっち」
ダイニングテーブルにスクランブルエッグ、トースト、サラダが盛り付けられたお皿がコトリと置かれた。
「コーヒーはミルクたっぷりだよね?」
「ええ、ありがとう」
なんて甲斐甲斐しいんだろうか。
わたしの好みもきちんと把握してくれていて、至れり尽くせりだ。
朝食まで用意してくれる男前のお金持ち――もしやわたしは、事故で頭を打ったせいでまだ眠り続けているのかもしれない。
「これは夢……?」
「まだ寝ぼけてるのか?」
笑いを含んだ声で言いながら、ジェイクが向かい側に座る。
ジェイクの作ってくれた朝食はとても美味しかった。
たいしたことはしていないと本人は謙遜したけれど、たいしたものだと思う。
わたしは料理がからっきしダメだ。
仕事が忙しいと自分自身に言い訳をして、朝はシリアルとコーヒー、昼はカフェでサンドイッチ、夜は市販のソースを使ったパスタ……という生活を送っていた。
包丁すら使わないのだからもはや料理とは言えない。
出会って3カ月で彼との結婚を決めたのは、いわゆる胃袋を掴まれたというやつなのかもしれないと思った。
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