第2章 新生活

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 昼食作りは、わたしもジェイクを手伝うことにした。  いつまでもおもてなしを受けてばかりはいられない。ちょっとした作業ならできるだろう。 「なにを作ろうか」  ジェイクが冷蔵庫の扉を開ける。    事前に用意してくれていたのか、そこには食材があれこれ詰まっていた。  その夏野菜を眺めているうちに思いついた。 「ラタトゥイユにしましょうよ」  言ってから自分が一番びっくりした。  なに言ってるの、作れるわけないでしょう!?  作り方はなんとなくしか知らない。    やっぱりもっと簡単そうなものに――と提案する前に、ジェイクが「いいね」と笑ってズッキーニやナスを取り出していく。  お店でたまに食べるラタトゥイユを思い浮かべながら、とりあえず野菜を適当に切っていけばいいと自分に言い聞かせる。  なんでもない風を装っているけれど、心臓はバクバクしっぱなしだ。  どうせすぐに下手なことがバレて、ジェイクに笑われるだろう。  覚悟を決めて、えいやっとタマネギを切る。やけにすんなり切れた。  おや?と思いながら、次にズッキーニを切った。  不思議と体が覚えているかのように危なげない手つきでストンストンと、野菜を切り終えた。  わたしの隣では、ジェイクがつぶしたニンニクをオリーブオイルで炒めているところだ。 「この包丁、切りやすい……」  刃をよく見てみれば、料理をしないわたしでも知っているドイツの有名メーカーのロゴが刻まれている。 「それ、ブレンダの家から持ってきた包丁だけど?」    ジェイクにそう言われて、そんはずはないだろうと驚いた。  見覚えがないし、使うはずもない。もらいものだろうか。  それとももしや、わたしはこの1年の間に料理人にでもなっていたんだろうか。  どこかのレストランの厨房で働いていたとか……?    わたしの料理の手際に関してジェイクがなにも言わないということは、以前にもこうして一緒に料理をしたことがあるのかもしれない。  出来上がったラタトゥイユと冷製パスタは、とても美味しかった。  ジェイクとの共同作業とはいえ、自分がこんなにも美味しい料理を作れたことがいまだに信じられない。   「ねえ、ジェイ。わたしはこの1年間ずっと無職だったの?」 「いいや。3カ月前までは家政婦だった」 「家政婦!?」    わたしは言葉を失った。  嘘でしょう……? 自宅の掃除もままならないほどズボラなこのわたしが!?  ジェイクは少しためらったあと、こちらをうかがうような表情で口を開いた。 「サム・キンダーソン氏がきみの雇い主だった。覚えてる?」  サム・キンダーソン。  頭の中で何度もその名前を繰り返してみたが、なにも思い浮かばなかった。  
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