第1章 目覚め

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第1章 目覚め

 まず聞こえたのは、ピッピッピッと規則的に鳴り続ける機械の音。  次に消毒液の匂いを感じて、わたしはいまどこにいるのだろうと疑問がわいた。  重いまぶたをゆっくり開けると白い天井が見える。  首をゆっくり動かして横を向けば、アイボリーのカーテンを通して陽光がわたしの顔に当たった。  まぶしさに目をすがめながら視線を天井に戻し、今度は反対側を向く。  視界に入ってきたのは心電図のモニターと点滴スタンドだ。吊り下げられたバッグからは透明な輸液がポタポタと滴り落ちている。  その管をたどれば、わたしの左腕に到着した。  どうりで左手が疼くわけだ、点滴の針が刺さっている。    まだ頭がぼんやりしているけれど、どうやらわたしは病院のベッドに寝かされているらしい。  体のあちこちが痛むのは、ベッドに同じ姿勢で寝かされていたせいかそれとも怪我でもしているんだろうか。  ふうっと深呼吸して上半身を起こしてみようとしたときだった。 「ブレンダ!」  突然聞こえた男性の大声に驚いて心臓が飛び跳ねる。  心電図の波形にもそれが現れたのか、モニターがピピピッと不規則な音を立てた。  そんなことはお構いなしといった様子で、金髪の男性は青灰の目を潤ませながらわたしのこめかみに形のいい唇を寄せる。 「よかった……! 先生を呼んでくるから!」  そう言うや否や、彼は病室を飛び出していった。    遠ざかる足音を聞きながらしばし茫然とした。  懸命に記憶を手繰り寄せようとしてみたけれど、頭の中に靄がかかったようでうまく思い出せない。  自分の身になにが起きたのだろう……?  首をひねって考えているうちに、複数の足音が近づいてきた。  現れたのは、白衣の医師とナースウェアの看護師だ。 「ご気分はいかがですか?」  男性医師がモニターとわたしを交互に見ながら質問してくる。  答えようとして簡単に声が出ないことに気づいた。口の中がカラカラに乾いている。    唇を舐めてどうにかかすれた声を出す。 「……まだ頭が……ぼんやりしています」  医師が小さく頷きながら矢継ぎ早に質問を続ける。 「お名前は? 生年月日を言えますか?」 「ブレンダ・リッチモンドです」  難なく答えると、医師がにっこり笑った。  意識は問題ないと判断してもらえたようだ――そう思ったのはここまでだった。 「では生年月日と年齢を」  生年月日も難なく答える。しかし――。 「26歳です」  そう答えると、医師が小首を傾げた。  横から金髪男性が苦笑交じりに告げる。 「ブレンダ、先月誕生日を迎えたことを忘れたのか。いま答えたばかりだろう?」  男性が差し出してくれたペットボトルの水で喉を潤した。 「ですから、先月誕生日を迎えて26歳になったところです」  この人はなにを言っているんだろう。  自分の誕生日と年齢ならきちんと把握している。    すると医師が少し険しい顔で再び質問してきた。 「いま何年の何月だかわかりますか?」 「はい」  わたしは自信満々に答えたが、完全に空気が変わった。  医師、看護師、最初にわたしの名を呼んだ金髪の男性が、困惑した顔を見合わせている。  ここで壁に掛けられたカレンダーに目が留まり、その数字を見たわたしはギョッとした。  おかしい。  わたしの認識よりも暦が1年先に進んでいるではないか。   「わたし……1年近く眠っていたの?」    おそるおそる尋ねると、医師が困ったように眉尻を下げる。 「いいえ、リッチモンドさんが事故で意識不明になりここへ救急搬送されてから、今日で3日目です」  頭がぼうっとしているせいで、わたしが勘違いしているだけだろうか。  よく思い出そうとした瞬間、こめかみがズキンと痛んで指で押さえた。   「ブレンダ、大丈夫か?」  金髪男性が心配そうにわたしの顔を覗き込む。 「ところであなたは誰?」  医療従事者ではなさそうだ。それなのにここにいて、わたしの名を親しげに呼ぶこの男の正体がわからない。   「あなたとは初対面よね?」  男性が顔をこわばらせた。  
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