お願い、再び

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お願い、再び

「今日はハヤトも朝からフロアな。」 「は?僕は裏方だし。」 「いいじゃん、な?お願い!」  なんだよ。 「あと一回だけ、お願い聞いて?」  ほらな。またすぐそうやって。  結局また今日も僕は野々村君のあのイケメン顔にそうやって頼まれるとイヤとは言えずに流される。  なんだよ、あと一回って。いつもじゃん。いつも断れないの知っててあんな風に言ってくる。  いつもそうだ。なんか頼まれると、あの顔で言われたらやっぱり断れない。  結局今日も黒いベストを着て、僕までウエイターをやってる。  あんなに野々村君みたいに明るくオーダーなんかとれないし、お客さんに気の効いた事も言えない。  黙って俯き、ボソッと呟くのが精一杯だ。 「ホットドックを二つお願いします。」 「お飲み物は?」 「何がありますか?」  親子連れだったから子供にはジュースかなと思った。 「コーヒー、紅茶、オレンジジュースと炭酸類です。オレンジは紙パックのストローつきのやつです。」  小さい子が紙パックのストローつきがいいとなんとなく思った。コップの炭酸じゃ溢しそうな気がしたから。炭酸なんかきっとあの子には無理だし。苦いお茶もダメだろう。 「じゃあホットコーヒーと、そのオレンジにします。」  目を合わさない僕の俯く顔をジロジロと見ながらそのお客さんが顔を覗いてくる。下から顔を覗かれるのが嫌だったから目線を合わせるためにしゃがんで同じ目線で話す事にした。  あんま顔を見ないで欲しい。  それを誤魔化したくなってついでに言った。 「お手拭きはつけますか?ケチャップ、結構かかってるんで。」  きっと子供がケチャップで手をベトベトにするに決まってる。 「そうね、じゃあお願いします。」  まだこっちを見てる。  なんだよ、まだ話でもあんのか? 「あ、カラシはつけますか?抜きます?」  子供をみながらそう言うと、その人は笑顔でウンと答えた。  向こうで野々村君がさっきからその様子を見てた。  ドギマギしながら必死に受け答えしてる僕をきっと面白がって見てんだろ。どうせ僕は野々村君みたいにスムーズに接客出来ないし、あんな笑顔で話せない。 「あ、カラシはつけますかー?」  笑顔でこっちを見ながら野々村君が僕の口ぶりを真似をしてからかうようにそんな風に目の前の人に言ってた。  あとで静かに近づいてきた野々村君が僕の耳元で囁いた。 「カラシはつけますかー?いいね、ソレ」  わざとらしくもう一回、同じことを言う。 「カラシはつけますかー?ソレいただき!オーダーとる時しゃがむのもいいね。それもイタダキ!」  バカにしてンのかよ。  なんだか急に恥ずかしくなる。 「お手拭きも、いいね、それもイタダキ!」  なんだよ、ふざけやがって。 「そうだ、お前、いい笑顔してたぞ。やっぱ笑ってるほうがいいな。」  その言葉に顔が熱くなる。
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