神社

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神社

手水舎で手を清めるのを、少し躊躇った。雨に濡れていて、さらに濡らすという行為に違和感があったからだ。だが、罰が当たりそうで、俺は柄杓を手にした。 罰? 誰も見ていない、見てるとしたら、神? 神って何だ、八百万の神か。いや、ここは山神なのか? あの、物語の? いや、ゲームが史実なわけがない。普通だ、普通の神社に決まってる。 参道を進み、社殿の正面を外れると軒下を借りる。思ったよりは荒れてはいなかったが、誰もいないせいか寒々しい。荷物を下ろして、スマホを取り出した。動画を早速撮り始める。画面越しに見る神社は、さらに薄暗く、寂れていた。小さく白い塊が覆い尽くしている看板のようなものを見つけ、俺はそれが何であるかを確かめようと近づいた。 「絵馬…?」 前方後円墳のような形に、短い手が生えたようなものがたくさん掛かっている。まるで絵馬のようだが、ふと、ゲームの中で紙人形が出てくるのを思い出す。それによく似ていた。 実在しそうな住所と名前の横に、「呪われますように」と書かれてあるものに、目を奪われる。見間違いではないかとしばし凝視して、正しくそう書かれている事実に、身体の芯が冷えるのを感じた。 雨音の向こうに、かたり、と大きな音がする。はっとなって目を遣ると、奧に木札が立てられていた。 「コノ先、首塚」、と書かれていて、どきりとする。参道が横に伸びていて、鬱蒼と生い茂る竹林の奧に、首塚なるものがあるようだった。撮らなくてどうする、という動画配信者としての気負いと、そんな面白おかしく罰当たりなことをしていいのかという畏れが、綯い交ぜになる。 俺は、前者を選んだ。
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