山は紅に水は仄かなり

なるやとチャンネル

「どう…ですかね、声聞こえます？」
コメント欄を見ると、うぽつ、おはようございますとかに混じって、聞こえるよー、まじかよ、山きれーだな、なんて届いて、安堵する。
早朝といっても夜明け直前で、やや薄暗い。朝靄がうっすらかかって、幻想的でもある。
俺は「なるやと」という名前で時折配信をしていて、ゲーム実況で主に活動する弱小配信者である。とはいえ、見てくれる視聴者もそこそこはいるようになって、ついにチャンネル登録者数一万人になった。その記念でコラボしようと配信者仲間から持ちかけられた企画が、今回の登山動画だ。
「ライムの部屋」というチャンネルで活動する彼を、俺はそのままライムさん、って呼んでる。SNSのメッセージで声をかけてくれたのをきっかけに交流が始まったのだが、彼は配信者としては俺より数ヶ月先輩で、登録者数は現在二万人弱といった、兄貴みたいな存在である。ゲームだけでなく、料理やキャンプ、登山など幅広く動画を出してて、俺も大学時代は実は登山同好会にいたんですよ、って話したことから、今回の企画につながったのだった。
「これ、ライムさんのほうの配信も観てる人いる？」
動画としては後日編集したものを出す予定だが、今の出発前の生配信も企画のうちである。
今回登る希告山は神社ルートと峠ルートがあって、俺は久々の登山ということもあって比較的簡単な神社ルートをいき、山頂でライムさんと落ち合うことになっていた。
出発前の生配信、５合目でまた途中経過、山頂でゴール配信、をそれぞれ予定している。ライムさんも今から出発するらしいこと、俺を茶化してるらしいことが視聴者からのコメントで伝わってくる。俺はそれを受けて、いじられキャラをいつものように発揮する。ふと、流れるコメントのひとつが、目にとまった。