虚勢

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虚勢

配信は無事に終わった。平日の昼間だから、アクセス数も多くない。10分程の放送にして、後はゴールを待て!なんて威勢のいいことを言ったのだった。 充電池をひとつ失くしてね、というのは後日談として動画に入れよう、なんて自分の不安に言い訳をして、取り敢えず順調、と装いたかった。 届いたコメントによると、ライムさんはまだ5合目の配信はしてないらしい。あちらのコースのほうが時間がかかることは想定どおりだ。俺は俺のペースで行けばいい。再度荷物をまとめると、あらためて登り始めた。 ゲームのことに触れたら、この先にある神社は是非撮影してきて、とか、首塚まじであるらしいっすよ、なんてコメントがあった。 随分辺鄙で不便なところに神社を建てたものだ。参拝客が訪れるには道程が過酷だ。無人の神社と聞いたが、近隣の神社がこんな場所まで管理できるのかどうかもあやしい。 木々の向こうに鳥居の朱が見えた頃、急に空が暗くなってきた。葉っぱに落ちかかる雨音が耳に届いて、身体を湿らすことになるまでは、あっという間のことだった。俺は急いでザックから雨具を取り出す。機械類は生活防水がされてるとはいっても、濡れないことが最上だ。あらかたしまって、自分も登山用レインウェアを着込んだときには、雨足がかなり強くなっていた。 山の天気が変わりやすいのは想定どおりだ。よくあることだ。だが、少し濡れすぎただろうか? できる限り拭いたが、肌に触れる部分が湿っぽく貼り付く感触が気にかかる。 鳥居をくぐるとき、俺は一礼をした。たしかそんな作法があったはずだ。外界と神域を隔てる門。ここから先は、神が宿る場所――
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