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「うっすらマニキュア塗ってますか? 可愛いです、付き合ってください!」
「つや出しの美容液だけどね。本当に細かいところ見てるね。でも、その、ごめんなさい」
最近の磯貝さんは、断り辛そうに断る。
そうだよな。告白を断る方もしんどいよな。
むしろ、1学期の間あれだけ毎日告白を聞いて断ってくれていたのだ。それがとてもありがたいことだった。
もう、磯貝さんへの告白をやめた方がいいんじゃないか。
そう思うのにやめられないのは……。
「潮谷くんの好きな和菓子は?」
俺の好物を訊いてくるようになったから。
俺に少しでも興味を持ってくれているのだろうか、なんて。自意識過剰だろうか。思い上がりだろうか。
でも、やっぱりそう思いたい。俺に興味を持ってくれたのだと思いたい。
今まではそんなことなかったのかと思うと、それはそれで悲しいけれど……。
「俺は、くず餅が好きです」
「いい! いいよね! 知ってる? 関西と関東で原材料が違うんだよ。わたし関西の葛餅が好きなんだけどね。透明というか、半透明というか。あの涼しげな葛餅! 黒蜜やきなこもいいけど、中にあんこが入ってるのも美味しいんだよね! って、ごめん。わたしが語っちゃった……」
饒舌だった磯貝さんは、我に返ると恥ずかしそうに髪で顔を隠した。
はみ出している耳が赤くておいしそ……じゃなくて可愛らしい。
磯貝さんが和菓子好きなことは知っていたけど、こんなに熱く語れるほど好きだったなんて。新鮮。もっと聞きたい。
「もっと聞きたいです」
「え、えぇ? でも、あー、ほら! 潮谷くんは訊きたいこと、今日はないの?」
磯貝さんの和菓子語りを聞きたい。けれど5分では足りない。
仕方ない。今日の質問をするに留めよう。
「じゃあ……好きな季節が知りたいです!」
「んー。秋かな。冬は寒いし夏は暑いし、春は花粉症だし……。あ、でも暑いのか寒いのかで言ったら寒い方がまだいいかな」
磯貝さんはまだ少し赤い頬を覗かせながら、顔を隠した手と髪の隙間から教えてくれた。
あぁ、今日の5分が終わってしまう。
この時間がもっと続けばいいのに。
俺は、いつまで彼女に告白させてもらえるだろうか。
冬が来て、春が来て……。2年生でも隣クラスになって、また告白を続けて。
あっという間に3年生になり、磯貝さんと同じクラスになってもなお、俺は彼女の昼休みの始まり5分だけをもらい続けた。
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