キメラ

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 100円で3回。500円で5回。  幼い俺はまず、取りやすそうなぬいぐるみを探した。 「うーん」  死体のように転がされているぬいぐるみたちを観察して、ケースの奥側にある頭の大きいぬいぐるみが、一番取りやすそうだと判断する。  冷静に冷静にと念じながら、100円硬貨を入れて表示される、赤いデジタル表記。   アト 三回  俺は矢印ボタンでアームを操作しながら、ぬいぐるみに狙いをつけた。流行を意識した軽やかなメロディーと一緒にアームが移動して、ぴたりと止まり、クモが下に降りるように静かにするすると降下する。  アームがぬいぐるみの喉元(のどもと)に引っ掛かり、身体が持ち上がった瞬間、頭の中に黒い(もや)が立ち込めたような気がした。  靄の中に見える、俺の家とは比較にならない大きな家に、大人たちが大勢押しかけてドアを叩いて叫んでいる。子供の泣き叫ぶ音が聞こえたと同時に、輪っかを作った縄に首をつっこんだ男の姿が現れる。  まるで今見ている、アームに首を挟まれたぬいぐるみと同じように。 「いけ、いけ!」  自分の中で生じている不可解な現象を、俺は寝不足のせいだと納得しようとした。もしくは、テレビのせいだとも結びつけて、当初の目的から意識が逃げないように、明るい未来の扉が開けるであろう、ぬいぐるみ(キーアイテム)の存在に縋りつく。  首を吊られた状態のぬいぐるみは、かぎ爪のようなアームに挟まれて小さな下半身をぶらぶら揺らしていた。  ここで初めて、俺は自分の取ろうとしていたぬいぐるみの全容(ぜんよう)が分かったのだが、丸い大きな黄色い頭には耳も髪もなく、顔には目らしき、黒くて丸い布が二つ並んで貼り付けられ、首から下の下半身は、粗い縫い目を境界に、明らかに質感の違う柔らかな布地の青い胴体が、重力に翻弄(ほんろう)されて空中で躍っている。  腕は右が黄色で、左が赤と黒のチェック模様、右足はバラの花柄と、左足はスミレの花柄という、左右非対称の奇妙なデザインだ。 「いけ、いけ!」  俺は小さく唸った。幼い頭には、こんな気持ち悪いぬいぐるみが、自分の状況を打破(だは)できるわけがない――という、常識的な思考が働く余地(よち)なんてない。  首尾(しゅび)よく引っ掛かった、このぬいぐるみこそ自分を助けてくれると信じて、期待に胸を高鳴らせながら、このまま取り出し口の穴に落ちてくれることを祈ったのだが……。  ぼとり。  無情にも、途中で落ちてしまった。  しかも、真下には別のぬいぐるみがあり、そのぬいぐるみに抱きつくように、落ちていって見えたのは気のせいだろうか。 ◆  アト 二回 ◆ 
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