13人が本棚に入れています
本棚に追加
100円で3回。500円で5回。
幼い俺はまず、取りやすそうなぬいぐるみを探した。
「うーん」
死体のように転がされているぬいぐるみたちを観察して、ケースの奥側にある頭の大きいぬいぐるみが、一番取りやすそうだと判断する。
冷静に冷静にと念じながら、100円硬貨を入れて表示される、赤いデジタル表記。
アト 三回
俺は矢印ボタンでアームを操作しながら、ぬいぐるみに狙いをつけた。流行を意識した軽やかなメロディーと一緒にアームが移動して、ぴたりと止まり、クモが下に降りるように静かにするすると降下する。
アームがぬいぐるみの喉元に引っ掛かり、身体が持ち上がった瞬間、頭の中に黒い靄が立ち込めたような気がした。
靄の中に見える、俺の家とは比較にならない大きな家に、大人たちが大勢押しかけてドアを叩いて叫んでいる。子供の泣き叫ぶ音が聞こえたと同時に、輪っかを作った縄に首をつっこんだ男の姿が現れる。
まるで今見ている、アームに首を挟まれたぬいぐるみと同じように。
「いけ、いけ!」
自分の中で生じている不可解な現象を、俺は寝不足のせいだと納得しようとした。もしくは、テレビのせいだとも結びつけて、当初の目的から意識が逃げないように、明るい未来の扉が開けるであろう、ぬいぐるみの存在に縋りつく。
首を吊られた状態のぬいぐるみは、かぎ爪のようなアームに挟まれて小さな下半身をぶらぶら揺らしていた。
ここで初めて、俺は自分の取ろうとしていたぬいぐるみの全容が分かったのだが、丸い大きな黄色い頭には耳も髪もなく、顔には目らしき、黒くて丸い布が二つ並んで貼り付けられ、首から下の下半身は、粗い縫い目を境界に、明らかに質感の違う柔らかな布地の青い胴体が、重力に翻弄されて空中で躍っている。
腕は右が黄色で、左が赤と黒のチェック模様、右足はバラの花柄と、左足はスミレの花柄という、左右非対称の奇妙なデザインだ。
「いけ、いけ!」
俺は小さく唸った。幼い頭には、こんな気持ち悪いぬいぐるみが、自分の状況を打破できるわけがない――という、常識的な思考が働く余地なんてない。
首尾よく引っ掛かった、このぬいぐるみこそ自分を助けてくれると信じて、期待に胸を高鳴らせながら、このまま取り出し口の穴に落ちてくれることを祈ったのだが……。
ぼとり。
無情にも、途中で落ちてしまった。
しかも、真下には別のぬいぐるみがあり、そのぬいぐるみに抱きつくように、落ちていって見えたのは気のせいだろうか。
◆
アト 二回
◆
最初のコメントを投稿しよう!