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取り逃したぬいぐるみは、有名なクマのキャラを模したぬいぐるみの上に落ちた。
俺はチっと舌打ちしながら、クレーン台の横にまわり込んで、ぬいぐるみの大きな頭と下敷きになったぬいぐるみの間に、アームが入り込む隙間がないかを確認する。
「あった」
俺は、ほっとした。落ち着け落ち着け、と、気持ちがはやり、緊張で心臓がどくどくと脈を打つ。
そして、隙間へ入り込むように、横に行くボタンを少し強めに押した。
「あ」
そのせいで、アームが大きな頭を通り過ぎてしまい、小さな悲鳴を上げる俺。呆然と、狙っていた地点とは別の地点に降下していくアーム見送りながら、再び頭の中で、黒い靄が立ち込めていくのを感じた。
そこでは小さい女の子が、このクマのぬいぐるみを抱きながら、誰かから必死に逃げている。ひゅっと風を切る音が聞こえた瞬間、赤い飛沫がぱっと散り、俺は突拍子もない幻影を振り払うように、左右に首を振ろうとした時だ。
「え」
信じられない光景があった。
アームに二つのぬいぐるみが引っ掛かっていたのだ。
さっき落とした、頭の大きい不気味なぬいぐるみと、クマのぬいぐるみだ。
「え、やった」
まさか、横にそれたアームが、クマのぬいぐるみの脇下を引っ掛けて、頭の大きいぬいぐるみごと引っ張り上げてくるとは思わなかった。
信じられない光景に、俺は子供ながら興奮した。
二つもぬいぐるみを手に入れる幸運の前では、頭の大きいぬいぐるみと、クマのぬいぐるみの接触している部分が、一つに融合しているなんて些細な問題でしかない。
「あっ、あ」
けれど、テンションが上がった俺を嘲笑うように、二つのぬいぐるみが別のぬいぐるみの真下に落ちた。
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アト 一回
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