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◇
ユーリはユリウスに挨拶を告げて温室を出ると、カイルの後を追った。
中庭から外廊下に差し掛かるあたりで、苛立ったように地面を強く踏み締めるカイルの背中に追いついた。
「カイル、待って!」
ユーリはカイルの腕にしがみついた。カイルは眉を寄せ、口元をきつく結びユーリから視線を背けている。
「カイル、僕、ユリウスの話引き受けるよ」
「はっ⁈」
カイルは目を見開くと、ユーリの両腕を掴んで向き合った。
「何言ってんだ! 命を狙われるんだぞ⁈危険すぎる!」
「でも! 僕なら怪我をしてもカイルが助けてくれるんでしょ?」
ユーリが食い下がると、カイルはぐっと喉奥に何かを押し込み、膝を折ってユーリの足元にしゃがみ込んだ。ユーリもその隣にしゃがみ、カイルの顔を覗き込んだ。
「あいつ、詰めが甘いんだ。王命にすれば、俺は断れないっていうのに……そうしなかった」
「うん……ユリウスは、優しいね……」
ユーリはそう言いながら、カイルの頭をゆっくり撫でた。
カイルは自らの膝に乗せた腕の中に頭を伏せて表情を隠してしまっている。
「わかってるんだ。本当は、ユーリを危険に晒すことあいつだって望んではいない。だけど、あいつは周りを犠牲にしてでも、誰よりも自分自身を優先するという覚悟がある」
「うん……そうだね、ユリウスは次の国王になる人だもんね」
人である前に王族だ。
ユリウスは、ラバール家で療養中一緒に暮らしていたころから、すでにそんなふうに自身の立場をわきまえていた。
ユリウスはもし仮に王族でないのなら、自身の身を犠牲にしてでも他者に尽くすような、そんな人だ。そんな彼が自分の身代わりになれとユーリに告げるのは、さぞ心が痛んだことだろう。そして、そんなユリウスの胸の内を、きっとカイルも察している。ユリウスの気持ちがわかるから、だからきっと、カイルもこんなに辛そうなのだ。
「ねえ、カイル……僕が、ユリウスを守るよ。これは僕にしかできないことだもん、僕、この話引き受けたい」
カイルの大切な人を守ってあげたい。ユーリはそう思った。それに、ユーリにとってもユリウスは大切な人だ。
「ユーリ……」
カイルは顔を上げた。
ユーリがカイルの腕に手を置くと、カイルはゆっくりとユーリのその手を握った。
「だから、カイルが僕のこと助けてね? これは、カイルにしかできないこと」
本当は少し怖かった。殺される、怪我をさせられる、そんな風にさっき聞いたから。
でもユーリは精一杯口角を上げて、カイルに向かって笑いかけた。ユーリはカイルとユリウスの力になりたいのだ。
カイルは何も言わないまま、目を閉じて天を仰いだ後で、ユーリを強く抱き寄せた。
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