6.ごきげんとり

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6.ごきげんとり

     ◇  ユーリは部屋に連れ戻された。  今は傍に並べられたカウチに座り、膝の上に手を置いて三角耳をへたりと伏せている。  部屋にはカイルとユリウス、そして大汗を必死に拭いながら先ほどの出来事を打ち明けるデレクがいた。 「よりによって、王宮医術師長に見られたか……」  ユリウスは口元に指を置きながら、悩ましげにデレクの報告を繰り返した。 「やはり医術師長が王弟と手を組む首謀者の一人なのか?」 「その可能性はおおいにあるが、しかし、なかなか腹の見えないお方でね」  カイルの問いにユリウスはそう答えた。 「ごめんなさい……」  深刻なみんなの様子に、ユーリはしょぼくれた声で謝罪した。  そんなユーリの隣にユリウスが静かに腰を下ろし、慰めるようにユーリの肩に腕を回して引き寄せた。 「大丈夫だよ、ユーリ。私の方こそ窮屈な思いをさせてすまなかったな」  ユリウスの声は明朗かつ穏やかで、胸に優しく響く音だ。だけどそれが今のユーリにはなんだか痛い。胸の奥がじくじくとする。一体どうしてしまったんだろう。  まだ俯いたままのユーリを見て、ユリウスはさらに優しい声音で言葉を続けた。 「そうだ、夕食は私とカイルと一緒にとるとしよう。ユーリの好きなものを作らせようね。私の可愛い子狐は何をご所望かな?」  少し揶揄うように、ユリウスがユーリの三角耳をくすぐった。  普段ならただの戯れだ。嫌な気持ちになんかなったことはなかったのに。ユーリはぐっと口を結んで身を捩り、ユリウスの隣から立ち上がった。 「いらない。お腹空いてない」  ユーリはそれだけ言うと、大きなベッドに飛び込んで、頭からすっぽり毛布にくるまった。 「何拗ねてるんだ、ユーリ!」  叱りつけるようなカイルの声に、ユーリは尚更意固地になって、ギュウと毛布を握りしめて丸まった。 「コラ、おい、出て来い! どうせ時間になれば腹減ったって言うんだから、今のうちに食べたいもの伝えておけよ!」 「いい! いらないっ! 二人で食べればいいでしょ!」  カイルがユーリの毛布をひっぺがそうと引っ張るから、ユーリは必死に応戦した。隙間から入り込んできたカイルの手をユーリがペチリと叩くと、「このやろっ」とカイルが毛布越しにユーリの体を抱え込んだ。 「カイル、やめてやってくれ、きっとユーリも疲れているんだ」  ユリウスが言うと、カイルは素直にユーリから離れた。 「ユーリ、気が変わったら外の護衛に言うといい。他にも欲しいものがあればなんでも言いなさい」  ユーリはそんなユリウスの優しい声には応えずに、蹲ったまま毛布の中に籠城した。  やがてカイルの呆れたようなため息が聞こえ、みんなが静かに部屋を出ていく気配があった。  部屋に一人きりになると、何故かどうしようもない寂しさが込み上げてくる。  役に立ちたいと自ら進んで身代わりを引き受けたのにも関わらず、失敗してしまった自分が恥ずかしい。  カイルとユリウス仲を取り持ってあげたいだなんて意気込んでいたのに、ユリウスの優しさに苛立ってしまう自分が嫌いだ。
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