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3.リップの使用は、あと一回
*
しかし、三月になると次第に琴美の気分も落ち込んできた。
リップの使用回数が、残りわずかとなったのだ。
お店のお姉さんが言うには、使用してから一年。
四月半月に買ったから、来月には使用できなくなる。
(このリップがあったから、明るくなれたのに)
自分はまた内気で引っ込み思案でしゃべるのが下手な性格に戻ってしまうのだろうか。
リップを塗っても、その思考は消えなかった。
だが、気持ちが前向きになるようになったためか、残り少ない青春の日々を無駄にはしないよう努めた。
友達とはこれからも変わらず接し続けた。
委員会に積極的に出て、部室の掃除も行い、あれだけ苦手だった男子生徒ともよく会話する。
(……せめて悔いが残らないようにしたい)
三月の修了式後、琴美は気になっている男の子を学校の奥庭に呼び出した。
クラスメートの内海くん。
彼は成績も良くバスケに打ち込むすごい人だ。
彼の笑顔や声はクラスを明るくしてくれた。
「急に呼び出してごめんね」
何だろう、と目をぱちぱちしている内海くんに向かって、琴美はまっすぐ言葉を投げる。
「う、内海くんのことが好きです。お付き合いして欲しいです!」
ばっと頭を下げて、ぎゅっと目をつぶる。
内海くんを見ているとドキドキする。
変な顔をしているだろうから、その顔を見せたくないのもあった。
数分の沈黙が漂い、春の風が1つ吹いたあと、内海くんが返事をくれた。
「ごめんなさい、俺、他に好きな子がいるんだ」
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