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1.魔法のリップに出会うまで
高校生となった琴美は、入学式初日から気が重かった。
なぜなら、彼女は超がつくほどの内気で引っ込み思案だったからだ。
中学で友達だった子は皆、自分とは違う高校へ進んだ。
琴美の中学時代を知る同級生は存在しない。
これから一年間過ごす教室に行く足取りも重い。
新しい高校の新しい教室、新しい先生と新しいクラスメートに囲まれ、琴美は超速でドキドキしてきた。
先生の説明を終えて、次はクラスの自己紹介。
自分の番が回ってきたとき、琴美はうつむきながら自分の名前を言った。
「あ、た、竹城、琴美です……南中学から、きました……」
よろしくお願いしますを言って早々に席に着く。
拍手はまばらだ。
たぶん、琴美の名前を知った者は前後左右のクラスメートくらいだろう。
それくらい、琴美の声はか細かった。
入学式を終え、その後は授業が始まる。
授業が終わり休み時間になると、いつも一人だ。
優しい誰かが気を配って「竹城さんもどう?」と声をかけてくれたが、笑顔も作れず返事もできず、入学から一週間でクラスメートは離れていった。
体育のチーム分けも余る。
課外学習の班分けでも余る。
いじめられこそしなかったが、琴美は学校へ行くのが憂鬱になっていった。
(わたしだって、このままじゃだめだってわかってる)
琴美も、自分の性格を直したいと考えたことはある。
というか、四六時中ずっと考えている。
そのきっかけは、中学時代の仲良しだった友達だ。
紬ちゃんという女子生徒は、三年生のときに初めてクラスメートになった。
引っ込み思案でしゃべることさえままならない自分に寄り添ってくれた。
明るくて聞き上手で辛抱強くて、琴美のたどたどしい言葉をずっと待ってくれていた。
違う高校には行ったけれど、メッセージは定期的に送り合っている。
自分は、紬ちゃんのように、明るくて、聞き上手で、辛抱強い女の子になりたい。
四月が半分も過ぎる放課後、琴美は気分転換にいつもとは違う道を歩いた。
人気のない通りで、一昔前の懐かしさを漂わせる商店街だ。
きらきらした服を飾ったお店や、端がほつれたのれんを提げたお店や、黄ばんだ本を並べたお店が並んでいる。
その中で1つ、分厚くしっとりしたカーテンのかかった板チョコのような扉が目に入った。
ショーウィンドウからは西洋のお人形や不揃いな宝石がきれいに飾られている。
値札が見つからないから値段はわからないが、自分のお小遣いではとても買えそうにない。
だが、琴美の手は自然と、その扉を開いた。
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