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第五章 晩夏光の図書室
なんだか、普通の女子高生ってこんななのかな、なんて思うような放課後だった。
まりんちゃんはあたしの行動や表情に対して、気にしたり問いかけてはくれるけど、深くまでは聞いてこないし、すぐに別の話題や目の前のことに興味が逸れて話が次々展開していって尽きることがない。
色んなことに興味を持っているから、きっと一つのことにとどまってなんていられないのかもしれない。
隆大くんの部活が終わるのを待って、学校へ引き返していくまりんちゃんと「またね」と言って手を振り別れた。
直後、まりんちゃんが道路の反対側を歩く人に「おーい」と声をかけているから、つい、向こう側に誰がいるのか気になって視線を向けた。
「なーなみー!!」
あたしの視線がその人を捉えるのとほぼ同時に、まりんちゃんが相手の名前を呼ぶ。
制服はうちの学校のものではなくて、セーラー服だ。膝下のスカートにきっちりしたリボン。長めの黒い髪は後ろで一つ結びにしていて、眼鏡にかかるくらいの長さがある前髪が揺れたと思えば、まりんちゃんの方を向いて顔を上げた。
照れているのか、大きく全身で呼び止めるまりんちゃんとは対照的に、控えめに小さく手を振っている。
「……あの子……」
七美……?
記憶の中の古賀くんの隣を歩く七美の姿を思い出す。そして、まりんちゃんに視線を戻してみると、なにやら親しげに話しかけている。
どう言うこと?
まりんちゃんと七美は知り合いなの?
ものすごく気になるけれど、人の交友関係にあまり関わったりはしたくなくて、気が付かないふりをしたままゆっくり歩き出す。
だけど、どうしたって気になる気持ちの方が上回ってしまって、あたしは踵を返した。七美に「またねー」と言ってまた学校へ向かい出すまりんちゃんを慌てて追いかけた。
「……ね、ねぇ、今の子、知り合い?」
普段走ったり急いだりなんてしないから、突然誰かを追いかけるなんて自分でも驚いているし、運動なんてしないからほんの少し走っただけで息が思ったよりも上がってしまった。振り返ったまりんちゃんも驚いたように目を見開く。
「涼風ちゃん?」
「今、話しかけてた子って、七美って言うんだよね?」
「うん、そうだよ。小学校の時仲良かったの。すっごい久しぶりで思わず声かけちゃった」
あははと笑うまりんちゃんは、きっとあの七美って子が古賀くんの元カノだと言うことは知らないのかもしれない。
「あの子、古賀くんの元カノだと思うんだけど」
「…………え?」
うん、いい反応だと思う。
まさかと苦笑いするまりんちゃんに、あたしまで苦笑いするしかない。
それはそうだ。古賀くんは誰がどう見たってイケメンで、背が高くて顔面良すぎて、モテるけど近寄りがたくて、美人な先輩すらなかなか告白するのを躊躇うくらいに手が届かないで有名なんだ。
あたしがそんな古賀くんと付き合えたのは、本当に今考えればタイミングや運が良かったとしか言えないかもしれない。
「そうなのー!?」
「うん……」
「あの古賀くんの、元カノが、七美?」
「うん」
ぱっちりと開いた目元がまん丸くなる。そして、嬉しそうに細く弧を描いていく。
「へぇ、古賀くんって見る目あるね。七美に涼風ちゃんでしょ? なにそれ、やっぱり古賀くんって中身までイケメンなんじゃん! マジすごい!」
「……は?」
まりんちゃんが興奮気味に古賀くんのことを褒め始めるから、あたしは何が何だかわからなくなる。
だって、葉ちゃんと同じ反応をまりんちゃんもするんだと思ったから。
それなのに、なんでこんなに嬉しそうなの?
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