第一章 蝉時雨の出逢い

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 もう、おばあちゃんにも会えないのかな?  もうずっと、このまま、ここにひとりぼっちなのかな?  どうしようもない悲しみが溢れ出してきて、感覚のない悲しみが次々と溢れ出て来る。心の奥底に溜まっていた寂しさが、ここぞとばかりに崩壊しているのかもしれない。  死んだら終わりだ。  我慢してきたこと全部吐き出して、思い切り泣いて、未練がなくなったら、本当にあたしは死ぬんだろう。  ひんやりと、急に指の先に冷たさを感じた。  両手を顔の近くまで上げて、指先を見つめる。  小刻みに揺れる、細く長い白い指。  終わり?  あたしの人生終わりなの?  まさか、そんなのひど過ぎる。  あたしが一体何をしたの?  我慢しすぎたのがいけないの?  母も、父も、古賀くんも、自分勝手すぎるよ。あたしばかり未練がましい。みんなは、あたしになんてなんの未練もなく離れて行ってしまったのに……  悲しい。寂しい。虚しい。  泣いたって仕方ない。  泣いたってどうしようもない。  だけど、それ以上に、どうしようもなく、寂しいよ……  泣いたら負けだ。  泣いてなんかやるもんか。だって、悔しいよ。あたしばかりこんなに何もかも我慢してる。本当は全部全部偽りだ。家でも、学校でも、どこにいたって、あたしは誰かにそばにいて欲しいから平気で自分の心に嘘をついてきた。  それがいけなかったのかな?  だったらどうしたら良かった? 全部素直に気持ち吐き出していたら、変わっていた?  もう、分かんないよ。分かんない。あたしは、どうしたらいいの?  誰にも届くことのない悲しみを、心の中でひたすらに吐き出す。  これで死んで、次に生まれ変わったら、今度は自分勝手に生きてやる。  我慢なんてしない。あたしがやりたいように、あたしの思う通りに動いてやる。そしたら、こんなに悲しむことなんて無くなるんだろうから。  「泣いたって仕方ない」  母の言っていたことは正しいと思う。  だって、泣いたってこの現状は変わったりなんかしない。  ようやく冷静に考えられるようになって、湧き上がる悲しみの感情が喉を通り、目元を潤ませ溢れ落ちる前に、手の甲でグッと拭った。  動くことはできても、何も感じないし、自分以外には触れられない。うろうろと意味もなく図書室を彷徨う。本当に幽霊みたいだ。  図書室の入り口ドアに手をかけようとするけれど、触れてる感覚がない。幽霊なんだったら、もしかして通り抜けれるかも? なんて想像したけどダメだった。仕方なしに、あたしは元の場所に戻ってきて椅子を引き、疲れた感覚はないものの、気分的にどっと疲れて座って机に突っ伏した。 「……ん? 座れるじゃんっ!」  テーブルに伸びるように寝そべっていた体を勢いよく起き上げる。  どうやら机と椅子には触れられるらしい。  よく分からない自分の身体に、やれやれと呆れてしまう。  窓の外に視線を向けて、太陽の光を受けた。眩しさは感じることができて、右手で光を遮った。日差しはあたしの掌を、通り抜けてくる。僅かばかり遮られた光に目を細めた。  すると突然、ガラッとドアの開く音が聞こえて、あたしは驚いて振り返った。  入り口から誰かが入ってくるのかもと、身を縮めた。コツコツと静かな図書室に足音が響く。 「あっつー、何これ。サウナかよ」  ボソリと呟く声が聞こえてから、ピッと機械音が鳴った。頭上のエアコンが作動し始めたのが目に入る。 「あれ、窓開いてんじゃん」  こちらの窓が開いていることに気がついたのか、声を聞くに男の子だろう。徐々に足音が近づいてくる。  この人に、あたしの姿は見えるのだろうか?  あたしは、近づいてくる彼のことを恐る恐る見つめていた。通り過ぎるまでの間、目が合うことはない。距離にして数十センチ。  普通なら、そこに誰かがいるって気がつく距離だ。例え、あたしのことを知らなくたって、目ぐらいは合うだろう。  そんなことを考えていると、すぐ真横を通り過ぎて、開いている窓に手をかけるから、なんだかとても寂しい気持ちになった。  彼に、あたしの姿は視えていないんだ……
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