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はるばる王都から治安部隊が到着した。
百人ほどの隊員たちが、ヤマガミ党とバルマン党の抗争の顛末を調べにきたのだ。
治安部隊が到着したことで、ヤマガミ党の幹部たちは、とうとう自分たちもお縄かと思ったが、治安部隊は、バルマン勢とどのように戦ったのかを聴き、現場検証はするものの、山砦の連中を咎める様子がない。
不思議に思ったら、何のことはない、自分たちが「先生、先生」と親しく接していた剣士が、実は王都守護庁の長官代理、つまり治安部隊を束ねるトップだったのだ。
度肝を抜かれるとはこのことだ。
剣士の正体を知って直立不動の姿勢で横一列に並ぶヤマガミ党の幹部連中に、剣士はたった一言、「ヤマガミを見舞うぞ」と案内させた。
病床のヤマガミは、剣士がイカルだったことを知った。
部屋にいた幹部たちも剣士の正体を知って、身を固くしている。
ニヤついているのはウトゥだけだ。
「……どうりで、先生は凄かったわけだ。完全に負けたよ。それなら、落馬したとき、俺様を助けたりせず、そのまま放っておけばよかったんだ。そうすれば、何をしなくてもこの砦は消滅しただろ……」
ヤマガミは自嘲を交えて、皮肉った。
「阿保う!」
それはびっくりするくらいの大声だった。
「貴様の下には何人の家族がいると思ってるんだ! それを背負っていたから、皆がついてきたんだぞ! 貴様はバルマンと同類か!」
ヤマガミが息をのんだ。周りの空気が張り詰める。
「ち、ちがう……。俺様は、彼奴みてぇに腐っちゃいねぇ……」
ようやくそれだけを言った。
「その言葉、これに誓え」
イカルはヤマガミの目の前に手を差し出した。
手のなかには、母の身につけていたネックレスがあった。
ヤマガミの眼が大きく見開かれ、泪がこぼれた。
口がわなないて、言葉にならない。
「貴様、これから街道筋の治安を守る山賊になると誓え!」
ヤマガミは大きく鼻を啜ると、震える声で言った。
「……街道を守る山賊ですかい? 面白れぇおひとだね、イカルさんは」
ウトゥは今回の活躍により「剣聖」と呼ばれるようになり、ヤマガミは街道筋の往来を守る手厚い保護が評判となって「山神」と呼ばれるようになった。
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