無法地帯(剣と仮面のサーガ)

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 近ごろ山砦のやさぐれていた雰囲気が薄れ、活気が以前とは異なっていることに気づき始めた者もいる。  それは喜ばしい変化だったが、その矢先にバルマン党が押し寄せてきたのだ。  剣士の言葉もあってか、山砦には、自分たちの未来を守るための戦いであるかのような、一体感と高揚感に満ちていた。 「よいか、敵は多そうに見えるが、戦闘力や統率力の高い連中は一握り。あとは烏合の衆だ! 落ち着いて対処すれば、勝てる!」  剣士のよく響く声に、山砦の皆は「おおッ!」と応える。 「こちらの備えは、山砦の傾斜を利用し八段に分けて、それぞれに防壁を厚くしてある! そこで、相手を引き付けて粘りに粘ってから、上の方の防壁に一段ずつ退いていくのだ! そうすれば、相手は引き込まれて、駈け上ってくる! そこを次の防壁で待ち構えて反撃する!」  剣士の明瞭な作戦に、山砦の面々は目を輝かせて再び「おお!」と応じた。  それでもバルマン勢が揃ったとき、眼下に広がる頭数の多さに息をのんだ。  バルマン陣営から(とき)の声が上がり、いちばん下手の防壁に押し寄せてきた。  荒波のように防壁にぶち当たる。  ヤマガミ勢は傾斜を利用して矢を放ち、石礫(いしつぶて)を投げた。  防壁を越えようとする者を叩き落とした。  ヤマガミ勢は、少しずつ上手の防壁に退いては、つぎの場所で攻防を繰り返した。  バルマン勢は山砦に誘いこまれ、縦に伸びていく。もともと山砦の斜面の幅は狭いので、数の優位性を十分に活かしきれていない。  だが、時が経つにつれ、働き詰めのヤマガミ勢の、疲労の色が濃くなった。  それでも丸二日、粘りに粘ったのは奇跡というべきかもしれない。  その間、山砦の隠し道から医者が到着し、ヤマガミの手当ては済んでいた。
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