無法地帯(剣と仮面のサーガ)

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「ほう――、俺様にお前さんを雇えとおっしゃるので?」  ヤマガミと言われるだけあって、(いわお)のような巨体の(ぬし)だった。  しかもかなりの悪相だ。  気の弱い者なら見た目だけで気絶しそうな相貌をしている。  ヤマガミは案内してきた狼男の方をチラリと見た。  狼男は左の頬から口の端にかけて斬られていた。  これを乱戦の中で見切って斬りつけたものなら相当な腕前とみえた。 「おい、お前はどう思う?」  ヤマガミは狼男に聞いた。 「へい。かなりの達人の先生でいらっしゃるかと……」  狼男の言葉を聞いて、ヤマガミはひとつ頷くと。 「こいつがいうなら、間違いねぇ。先生のおちからを、ひとつ俺様に貸しておくんなせぇ」  と頭を下げる。ヤマガミは一度決めたなら挙措に迷いがない。 「もとより、そのつもりで参った。いい買い物をしたな――」 「いまバルマンの奴らがうるせえんで、頼りにしてますぜ、先生」  剣士は山砦に住む連中とすぐに親しくなった。  剣士は、密貿易をしている隊商をヤマガミたちがどうやって判別しているのか不思議だったが、襲撃に同行したことで簡単に判った。  なんのことはない、犬を使っているのだ。  密輸品の臭いを覚え込ませた犬を先に走らせて、騒ぐようなら襲い掛かるという単純な仕組みだった。
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