無法地帯(剣と仮面のサーガ)

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 ヤマガミの陣営から数本の矢が飛んだが、馬上でこともなげに叩き落とす。  これが頭目のバルマンだった。 「ヤマガミ、出てこい! 一騎打ちといこうじゃないか!」  バルマンの声はよく通った。  ヤマガミは馬を進めようとしたが、剣士が制止する。 「罠だ! あいつが一騎打ちなんかするはずがない!」  しかしヤマガミの視線は、バルマンがしているネックレスに釘付けだった。  ヤマガミは声を震わせた。 「そのネックレスは……」 「昔な、気に入らねぇ行商人を()ったときの記念品よ!」  その言葉が終わらぬうちに、ヤマガミが雄たけびを上げて飛び出した。  ――ちッ!  剣士は舌打ちをして、矢継ぎ早に指示をする。 「弓は後方を狙え! ヤマガミを連れ戻せ! バルマンはわたしが仕留める!」  馬を急がせる剣士の目の前で、ヤマガミが数本の矢を受けて落馬するのが見えた。  思った通り、バルマンの背後に控えていた連中が、地面でもがいているヤマガミを押し包もうとする。  剣士は初めて己の剣を抜いた。  狼男たちは剣士の腰間がキラリと光るのを見た。  瞬く間に敵の手首や腕が飛ぶ。  剣の勢いに、たちまち包囲が崩れていった。  その隙間に、ようやく、狼男たちが割って入った。  すでに意識を失っているヤマガミの巨体を必死に引き摺り担ぎ上げ、自陣に引き込んだ。  剣士はバルマンに肉薄するが、バルマンはヤマガミ側に後続部隊の到着したのを見ると、さっさと退却の命令を出した。 「ふん、面白れぇ奴だな。お()ぇ、何者だ?」  剣士は返事の代わりに剣を突き出す。 「俺は、やばい相手とは戦わねぇんだよ」  バルマンは身をひるがえすと、見事というべき早さで逃げていった。
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