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一方、砦に引き揚げたヤマガミは瀕死の状態だった。
防具を身につけていたヤマガミの巨躯をもってすれば、どうということのないほどの矢傷のように思えた。
ところがヤマガミは意識を失いながらも、全身から滝のように汗を噴き出し、身を震わせていた。
矢にはご丁寧に毒が塗ってあったようだ。
剣士が傷口周りの毒を洗って、応急処置を施す。
狼男たち幹部が見ていても、気持ちの良いくらい適切な手際だった。
剣士がいなければ、ヤマガミは死んでいたに違いない。
剣士は手紙を書くと、急ぎロウライに医者を呼びに行かせた。
未明になって、ヤマガミの容態が落ち着いたと思ったのもつかの間、バルマン党が押し寄せてきたとの報を、見張りの者が知らせてきた。
ヤマガミが瀕死なのを機に、山砦を落とす算段なのだろう。
ここでも剣士の動きは素早かった。
剣士は山砦の幹部達を率いて、山裾に下りると、まず最も早く馬を飛ばせる者に隊商の護衛隊を連れて来るよう、伝えた。
伝令を頼まれた者は、護衛隊が引き受けてくれるか半信半疑だったが、剣士の言葉を信じて馬を走らせた。
その後も剣士は指示を出し、バルマンの先遣隊が到着した時には、山砦の備えを終えていた。
あとは護衛隊の到着まで耐えればよい。
ヤマガミの一党は、ここでも剣士の指示によく従った。
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