財宝が眠る山

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ヤマトがある山深い村に足を運んだのは、一本の電話がきっかけだった。 「大和与一くんだろ?」と呼ばれて驚いた。 動画配信者「おもしろ登山家ヤマト」として多少の知名度はあったが。 本名を知る人は少なかったから。 「僕、鈴木壮太だよ」 電話の相手は高校時代のクラスメイト。 高校生だったのはもう15年も前だ。 遠い記憶をたどってやっと思い出した。 いつも教室の隅っこにいた眼鏡の冴えない転校生。 目立ちたがり屋でお調子者のヤマトとは特に親しくもなかった。 懐かしい話に少し付き合った後、なぜ連絡してきたのか尋ねる。 鈴木の答えは「最近の動画、煮詰まってそうだったから」というもの。 どうやら単なるおせっかい。 ネットでも勝手な助言をするやつがいる、その類か。 直近の制作は『未確認飛行物体と遭遇』とか『未知の生物を発見』。 自分でもその方向性が良いとは思っていない。 「でも結局、そういうのがウケるんだ。動画で稼ぐのは大変なんだぜ」 言い訳すると、鈴木は「うん、そうだよね」と同情するように相槌を打った。 「それで君に情報を提供してあげようと思って」 語ったのは、鈴木の祖父が住む村の言い伝えについて。 「宝に福と書いてホウフク山。莫大な財宝が隠されたっていう伝説があるんだ。僕は登ってはみたけど…幽霊の声を聞いて怖くて引き返した。宝に触れた者には祟りがあるとかっていう話もあって。せっかく祖父から地図を受け継いだのに解読できないままで…だから大和くん、どうかなって」 祟り? 幽霊の声で引き返した? 俺はそんなものまったく信じないから平気だけどな。 「財宝探しか…」 スマホを耳にあてながら、パソコンでその山を検索すると―。 標高はそれほど高くもない。 もともとは真面目な登山家だった。 もっと厳しい山にいくらでも登ったことがある。 登頂に失敗してスポンサーが離れなければ、今でも活動を続けていただろう。 ただ、信ぴょう性がなくてどうにも引っかかる。 宝は本当に実在するのか? ヤマトの指摘に鈴木はうなった。 「単純に知られてないだけだよ。まぁ、疑うなら無理にとは言わない。他の人をあたってもいいんだ」 そう言われると、断るのが惜しく思える。 実のところ、視聴者数は伸び悩んでいた。 以前は山の風景を流すだけで人気を集められたが。 同じようなコンテンツが増え、競争が激化していたのだ。 インチキ臭い動画に手を出したのもそんな背景があった。 それでも期待した結果には繋がっていない。
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