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麓に着いた頃には薄暗くなっていた。
ヤマトを待ち構えていたのは、村人の集団だった。
登山口で会った警官もいて、きっとこの人が村の皆に知らせたのだろう。
ヤマトは取り囲まれ、口々に「宝はどうした?」と詰め寄られた。
正直に「これしかなかった」と札を見せる。
しかし、誰もその言葉を信じなかった。
「こんなの何の価値もねえ。てっぺんにたどり着いたなら、財宝があったはずだ。そのリュックをこっちによこせ」
渋々背負っていた荷物を渡すが、漁っても何も出てこない。
その時、誰かが言った。
「体に隠してないか? 服をはいで、確かめろ」
聞き覚えのある声だ。
それが何者なのか考える暇もなく、数人が飛び掛かってきた。
抵抗しても大勢にかなうはずもなく身ぐるみはがされてしまう。
丸裸にされる中、高校時代の記憶が脳裏に蘇ってきた。
あの頃、皆の前で服を脱がせて笑いものにしたことがあった。
地味な生徒をいじめていたのだ。
そう、それが鈴木壮太だ。
鈴木はすぐに引っ越して、ヤマトの記憶からも消し去られていたが…。
「撮影した動画を観たら? 真実がわかるよ」
声の主を見上げると、そこにいたのはうつろな目の鈴木だった。
すべて仕組まれたことだったのか―。
「待て、その動画は作り物だ」
動揺するヤマトをよそに動画が再生される。
映っていたのは―。
山を歩き、墓地や幽霊の正体を暴き、崖を登るヤマト。
最後には、謎を解き明かして財宝を手に入れて喜んでいた。
「この宝をどこに隠したんだ?」
「だから…それは偽物で…」と言っても皆、興奮状態。
弁解に誰も耳を貸そうとはしなかった。
「ホウフク山の宝は村の物だ。よそ者に奪われてたまるか!」
村人たちは怒りをあらわにし、殴る蹴るの暴行はエスカレートしていく。
「もういいだろう」という頃には、体はピクリとも動かなくなっていた。
「あれ? ここにバッグが…」
村人のひとりが道端に落ちていたボディバッグに気づいて開ける。
中からジャラジャラと宝石のようなものが出てきた。
「なんだこれ…ガラス玉…。じゃあ、宝はやっぱり見つけてなかったのか…」
もうひとりもつぶやく。
「ということは、財宝はまだ眠っている。この伝説は健在ということだ」
村人たちは冷静になって言った。
「この死体はまた山の墓地に運んで埋めよう。あそこなら誰も気づきっこないからな」
***
鈴木はほくそ笑んだ。
大和くんの居場所を探し出すのには苦労したよ。
うまく挑発にも乗ってくれてよかった。
村の皆はホウフク山を「宝福山」だと思っているけど―。
死んだ祖父から聞いた本当の別名は「報復山」と書くのだ。
恨みを持つ相手を葬ることができる山なのだという。
幽霊の声を聞いて途中で逃げたというのは嘘だ。
本当は崖で腕を負傷しながらも、なんとか最後まで登った。
宝の場所を突き止めたし、札に怨念を込めた。
その札に相手が触れた時、災いが降りかかるのだという。
それにしても、地図の文章は難解だった。
ヤマトに送ったものは、解きやすく作り直した。
「あれくらいの難易度じゃないと大和くんは解けなかっただろうから」
そう言って、高く不気味にそびえる山を見上げたのだった。
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