いつの間に終わるの、夏。

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夜7時。祭はよさこいで大盛り上がり。テキ屋の店も大繁盛。 たこ焼きも串焼きも飛ぶように売れていく。青年部が気を利かせてかき氷もテキ屋の代わりに作って次々に売れて行った。 テキ屋が串焼き焼いてるのも、柚葉がお客に商品を渡しているのも。親子揃って一並んでる姿も。毎年の夏の当たり前の景色だったけど。 久しぶりに見たからだろうか。なんだかすごくいいものを見ている気分になった。 「柚葉ちゃん、久しぶりだね。大人になったわー。」 青年部の男も昔ながらの顔馴染み。 「柚葉はもう、ビール飲める歳なんだよなー。」 「もう、やめてよ。お父ちゃん。」 テキ屋が自慢げに柚葉と肩を組んでいた。 「三宮さん、青年部のテントで焼きそば焼きますけど食います?タダでいいですよー。」 「えー、マジで?ありがとー。やったなー、柚葉ー。」 青年部は、テキ屋がヤクザだということは知っている。 テキ屋はヤクザはヤクザでも、一般市民には迷惑かけないタイプのヤクザで常識がないわけでもなかった。 「柏木さん、ありがとうございます。」 「祭といったら焼きそばと花火だからね。」 特に青年部の中でもカシワギさんは、テキ屋にフランクだった。 「わあー、猫ちゃん。」 リードに繋がれたまま、椅子で丸まっていればちっちゃい子どもが近寄ってくる。俺が子どもに黙って撫でられている間、子どもの親はテキ屋の店で買い物をするのだ。 「やっぱカイトは招き猫ですねー。」 「そうだろー。」 テキ屋がカシワギさんに、自慢げに笑ってる顔もいつもの夏と同じ。 でも、俺はなんだかすごくいいものを見ている気分だ。 テキ屋からおこぼれをもらって。 テキ屋の家族になった。 柚葉の膝も、テキ屋の膝も俺の特等席。 夏はテキ屋の夜店で花火を見上げた。この町の花火は、俺の好きなもののひとつになった。
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