いつの間に終わるの、夏。

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懐かしい匂いがする。 薄れる意識の中で久しく嗅いでいなかったその匂いに変に安らぎを感じた。 「…カイト。…カイト。」 愛おしい声だと思った。 その声に薄く目を開けた。 「カイト。」 もう一度、会いたいと願い続けた。 笑って欲しいと思う。 だが、その顔には涙が浮かんでいて。 まるで自分がいよいよダメだって言われている気がした。 『柚葉(ゆずは)』 やっとの思いで絞り出した俺の声に、柚葉がぼろっと涙をこぼした。 抱き寄せられて、その懐かしい体温にもう何もいらないとそう思った。
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