いつの間に終わるの、夏。

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「柚葉、コイツの名前どうするー?」 病院からの帰り道。カゴに入れられた俺は、川沿いの土手を歩くテキ屋と柚葉の声を聞きながらうとうとしていた。 手術後で、麻酔も切れて、なんとなく体が怠い。首にはカラーを巻かれていて、切られて縫われた場所は痛くても舐められない。 「んー、チビー?」 「いやー、デカくなると思うなー。雄だしー。諸説あるけど金玉取ると猫って太るって言うしー。」 「んー、トラー?」 「あー、トラ猫のトラはいっぱいいるなー。」 「んー、垂れ目。」 「三宮(さんのみや)たれめ。あー、かわいいかもなー。」 「本気?お父ちゃん。」 「柚葉が言ったんだろー。」 「じゃあ。……。あっ。見てー。」 「ん?」 柚葉の声にテキ屋が足を止めた。柚葉が、指差す方向を俺もぼんやり眺めた。 雲ひとつない空に、平べったいやつが鳥みたいに飛んでいる。 「ねえ、カイト。」 「おー、そうだな。」 「違うよ。」 「ん?」 「この子の名前、きょうからカイト。」 「あー。なんか、かっけーなー。三宮カイト。おー、いいなー。芸能人かよー。」 ぼんやりしながら2人を見れば。 「カイト。」 「カイトー。」 「カーイートー。」 「カーイトー。」 テキ屋と柚葉が交互に俺を“カイト”って呼んでくるから。 そっか。俺って、きょうから“カイト”って呼ばれるんだって。 名前をもらって。名前を呼ばれて、ぼんやりしながらも嬉しいってはっきり思った。
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