いつの間に終わるの、夏。

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柚葉がテキ屋の家を出て3年間。 柚葉は、時々テキ屋の家に帰ってきた。 テキ屋と柚葉は大学受験でも揉めた。柚葉は北海道大学の獣医学部を受験するというのだ。 合格したらあまり帰ってこれなくなってしまう距離で、テキ屋は柚葉を心配して柚葉に反対していた。 また“おやっさん”が間に入って『やりたいことやらせてやれ、親の勤めだ。』と柚葉の肩を持ち話はまとまったのだ。 柚葉は見事合格し、北海道に送り出す前日は家にいる全員で食事をして賑やかだった。 テキ屋は寂しすぎて珍しく酔い潰れ、次の日二日酔いで死ぬ寸前で柚葉を玄関先までしか見送ることができなかった。 「カイト、お正月は帰ってくるからね。」 「は?お盆は?」 「わかんない。」 「はー?」 柚葉は、最後に俺を抱き上げ俺の匂いをいっぱい吸って 「行ってきまーす。カイトー。」 って言って俺を床に置いた。 「お父ちゃん、じゃーねー。」 「おー。じゃーな。気をつけろよー。」 柚葉はテキ屋には軽く手を振って玄関を出た。 テキ屋は俺を抱き上げて、寂しそうな顔をした。 「じゃーねー、だってよー。つかよー、夏帰ってこないってよー。なんなんだよ、なー?」 柚葉は、高校の3年間もお盆は忙しくて帰って来れず。親子揃って夏祭りで夜店に立つことももうなくなっていた。 柚葉はいつの間にか親離れして、テキ屋は置いてけぼり……なんか、ちょっとテキ屋がかわいそうな気もする。
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