いつの間に終わるの、夏。

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だけど、夏は帰って来れるかわからないと言っていた柚葉が今年は夏に帰ってきた。 大学生になった柚葉は、お盆だけじゃなくお正月も帰って来なかったのだ。勉強が忙しいそうだ、仕方がない。 でも、流石に長かった。だって5年だ。 久しぶりに、柚葉の匂いを嗅いだ。 やっぱり俺もテキ屋と一緒でなんだかんだ柚葉には会いたかった。 「ごめんね、カイト。」 俺はもう高齢でこの世に生まれて17年。人間の歳で84歳だ。 猫は腎臓を壊しやすい。俺も腎機能が弱まっていると獣医に言われたが、高齢だからとこれといったケアをせず、パウチだけは腎臓のサポート機能がそなわったものを食べていた。 “毛並みも悪くない、耳だってピンと立ってる。”テキ屋は俺の頭を撫でながら“だから、まだまだ生きられるぞー、カイトー。”いつもそう言ってくれている。 「若頭!何してるんですか!?」 テキ屋は昨日、よその組の抗争に巻き込まれて腕に怪我をして帰ってきた。弾丸がテキ屋の二の腕の肉片を引きちぎったらしい。 「えー、夜店の準備だけどー。きょうはたこ焼きと串焼きくらいしか出せねーかなー。片手使えないからねー。」 「なっ。夜店なんか行かなくていいです!」 「やだよー、行くよー。青年部のみんな待ってるからねー。」 「若頭、そしたら俺らも」 「やだよ。邪魔しないでくれないかなー。親子水入らずなんだからー。」 テキ屋はこの夏、祭の夜店は1回だけ。きょうだけしかチャンスがなかった。若頭の仕事とスケジュールを調整していたらそうなってしまったのだ。 「柚葉お嬢さん、若頭を止めてください。」 よく喋る男が困って柚葉に助け舟を出した。 「柚葉ー。もちろん、来るよなー。カイトと一緒に花火見よー。」 テキ屋は片腕を吊った状態でヘラヘラ笑う。 「何言ってんのよ、お父ちゃん。」 柚葉は、俺を抱いたまま立ち上がった。
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